到る処に幸せあり
二人の孫は、両親とマンション暮らしの生活で高層の十五階に住んでいる。地の利を生かして時々親にデイズニーランドへ連れて行ってもらうなど、私の目からみれば誠に素朴な小学校生活をおくっている。都市生活だから、周りに山あり川ありと言う訳には行かないが、代わりにちゃんとそんな代償措置がある。
と殺風景な彼らの身の周りを書いたが、ただ幸せな事に、実は巾の広くもない道を隔てて自宅マンションの真向かいに高さ五メートルほどの小山がある。標高は兎も角、山と呼べる一応は山なのである。山の上に取り残されたみたいに小さな林があるのだ。横浜市内には珍しく、十五階の二人の部屋から僅かばかりな自然が望めるといえようか。
特に、雲行きの怪しい夏の夜には、湿った粘っこい空気が向いの林の木陰に満ちた頃、マンションの窓を開け放していると灯りに誘われて昆虫が飛んでくる。虫たちの目にも、人間の暮らし向きが自分たちの湿っぽい場所より随分良さそうに見えるせいだろうか。
部屋に飛び込もうとして、窓の網戸に手足が引っ掛かるのだが、虫たちが意欲に燃えて門をたたいた訳ではないから、窓の中の住人は大抵無視する。
が、中には好戦的で生きのいいカブト虫やクワガタ虫も時々混じっていて、運の良い夜にはそろりと網戸をずらせて素早く(値打ちもの?)が何匹も獲れる時があるそうだ。稀には、心にもない哀れな声で鳴くセミも混じて飛んで来る。
部屋に飛び込んでくるや、カブト虫たちは活動的で筋張った屈強な筋肉でまめまめく歩き回わろうをするが、あっと言う間に敏捷な小二の孫に捕まってしまう。しかし直ぐに打ち解けた仲になって虫かごに収容されるのだが、独りよがりの孫が施す親切にカブト虫が恩義を感じている風ではないが、大人が気をもむことは無い。
どの虫たちも主たる願いは金を払ってもいいから、余計な干渉をしないで欲しいというのが本音だろうが、小二の孫にそれは通じない。虫かごに入れるだけで、孫はすっかり満ち足りて幸せそうである。人生金( かね)ではない、到る処に幸せあり、なのが良く分かる。
 




