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日高小町

4.日高小町


 食べきれない分を、私はこっそり自宅の台所の冷凍庫の底一面に、平らに並べて隠した。その上に白い紙を敷き詰めて、「ソコが底」に見えるように細工して、上に他の冷凍食材を並べた。白い紙は週毎に段々せり上がって行ったのである。


 世の夫の不幸は、昔から大抵身近な女によって何気なく引き起こされる。ある日配偶者が、異変に気づいたからだ。冷凍庫の底が購入した当時よりも、かなり浅いと疑念を抱いた。 とんでもない女で、「白い底」を何気なくはぐったのである。


 女には、ぎっしり並んだウルメの大群が今にも襲い掛かるかのように見えた。色艶が好いから、生々しく生きているように見える。女は腰を抜かして、我が家が直面している世紀の大事件に悲鳴を上げた。


 人類が二名しか生息していない狭い家である。犯人は、2マイナス1イコール →「ヤツだ!」と、証拠がまるで無いのに犯人を断定した。

 女の口から激烈な単語が唾しぶきにまみれて、入れ歯と一緒に飛んで来た:「ヒーッ、チャンッ!」(=恥ずかしながら私の名)


 かっては生まれ故郷の紀州日高町の草深い山奥で、小町と呼ばれた美人である。寄る歳波で多少劣化しているとは言え、笑顔を消すと相貌に凄みが出る。険を含んだ目が、こっちを睨み据えた。女の全身がワナワナと怒りとなって荒れ狂い、中古の和風の家を揺らした。


 命の危険を感じて、ノミのサイズまで縮み上がったこっちは、床に這いつくばってソクラテス並みに弁明に努めた:「これはデパート側が仕掛けたワナで、オレオレ詐欺みたいなものだ」と、責任を一方的に相手に押し付けた。


 ワナに嵌められた哀れな年寄りへ妻は比類なく寛大であるべきだ、と私は独自の理論をこしらえ上げて訴えた。結果ーーー小遣いの減額は二割に抑えられ、命だけは助かった。

 が、話はまだ終わりではない:

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