夫原病
最後に、再度ウチの夫婦に話を戻す。書いたようにウチでは心拍数が「最低男と最高に近い女」が夫婦をやっている。今までの話が全て正しいとすれば、私は刺激を求め続ける人間で、彼女は(心拍が「既に」充分に高いから)刺激は食傷気味で、むしろ静穏を求めるタイプと言える。
思えば心拍の低い私の人生は平均以上に刺激だらけで、結婚直後に(一流企業を辞めて)転職し・居住地を変えたり・ドイツへ行ったり・起業したりーーー、であった。ひどい失業も経験した。静穏型の配偶者が良く付いてきてくれたものと思う。普通の人間なら、付き合っている内に発狂するのではなかろうか。
二人は起業した会社の共同経営者ーーーと言えば、夫婦仲が麗しく見え、ある意味格好良く映るかも知れない。けれども、経営というストレスまみれで困難に満ちた生活は、心拍の低い私には程よい快適さであっても、配偶者の本質に決してそぐわなかったと思う。
「感謝以外に無いーーー」なんて、そんな安っぽい言葉を私はよう使わない。配偶者が六十前になってついに難しい病を発症したのは、私が殺人を犯したのと同じだと考えている。




