信じ難い
2.信じ難い
(2)信じ難い
丁度一週間後、又用事があって矢張り会社の帰りに、その食品売り場に寄った。
何と、やっぱり3本入り一袋があるではないか! 先週のものは、売れ残りの最後を私が買った筈である。だから、明らかに新たに仕入れたものが、再び売れ残ったに違いなかった。
高知産は値も高い上、特殊な食材だし、それだけで晩御飯のオカズにはなり難い。それに、値段が1/10程度の他の産地の安いのも傍に沢山並べてあるのだから、その中から敢えて高知産を選ぶのは、「通」しか居ない筈である。そんな不審を抱きつつも、再度残り物の一袋を私は買った。
後から思えば、もっと慎重に対処すべきだった。滅多に無い事件が続いて二度連続して起きたなら、張られた伏線に気付くべきだったのだ。世の中は危険が一杯である。オレオレ詐欺以外にも、年寄りに対して何処にワナが仕掛けられているか、判ったものではない。
このワナは現実化した。なぜなら、その次の週に再度食品売り場に寄った時、流石に私は何となく寒気を感じた。何であれ夕方の時間に、残り物となれば、相場の数は大抵たった一つと決っているのに、今回はウルメが二袋(6本)も残っていたからである。昨今流行っているオレオレ詐欺かもーーーと怪しんだが、何故二袋なのか考えて見たが分らない。
用心しいしいさり気なく辺りを伺ったが、誰も私の方を注目している様子はない。が、安心は出来ない、昨今は隠しカメラという手もある。何気ない風を装い、素早く買い物籠に二袋を放り込んで、兎に角全量を買い占めた。
更にその又次の週に売り場に寄った私は、ついに逆上し掛けた。今度は三袋(=9本)の売れ残りを発見したからである。9本でも二千数百円だから、月間の小遣い五万円の私の懐具合からすれば、どうって事はない。けれども、一日一本食べても、9本なら一週間分以上ある。これには考え込んだ。
何せ田舎のデパートだし、周辺はローンを抱えた新興の中級住宅地である。 晩ご飯のおかずにならないのに、一袋三本1000円に近い干物を買う人がザラにいるとは思えない。 かと言って、その方面の文明が未発達なこの地域に、込み合う程「通」が棲息しているとは信じ難い。
だのに、ウルメの売れ残りが毎週増加し続ける異常な現象は、どう解釈すべきや? 人生は不可の解。裏に何かあるに違いないと、私は9本の売れ残りを凝視した。




