◎第十話: 「ウルメと日高小町と戦争」の話
第十話:「ウルメと日高小町と戦争」の話
1.ウルメ
一年前の話である。
私は高知産のウルメ (=メザシ、いわしの干物)が好物。高知に何年か住んだので、その時に味を覚えた。食べ比べたが、他の産地のものは何故か塩味がきつい。高知産は、季節によっても違うらしいが程よい塩味。 品質のいい太目のものなら1本が300円程もするから、結構な値段ではある。
メザシと言えば、昔は安い干物の代名詞だったのに、昨今は高級食材で、求める人は「通」として尊敬される位だ。強いて通がる必要も無かったし、その気になれば最近はネットでも取り寄せられる。けれども、たかがメザシに何もそこまでしなくてもーーーと思って、ついついそのまま残念な人生を過ごしていた。
毎日車通勤をしているが、会社と自宅の間にちょっと回り道をすると、郊外型のそごうデパートがある。 配偶者に頼まれて時々会社の帰りに立ち寄る。ここの一階の食品売り場では私が知る限り、高知産のウルメを扱った事がない。私の残念の一つだった。
ところがある日会社の帰りに、立ち寄った当デパートの食品売り場で、偶然「高知産」のウルメを見付けた。 3本がセロハン袋に入れられて、たった一つあった。 こっちは高知で鍛えた目利き、色艶といい上物だと直ぐに知れた。背筋を伸ばしてピンと張った感じがするのも良い。
今までに無かった事なので、顧客の反応を見る為に「仕入れ係」が、市場調査も兼ねて、試しに少し並べてみたのだろうか? もう夕方だから、一つ売れ残っていたのだ。やれ嬉しや! 横から人に取られまいと思って、素早くその一袋に飛び付いた。




