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デートコース

 少し頭を冷やす為に、食後のコーヒーを済ませてから二人で散歩する事にした。レストランに隣接して周囲が1kmはありそうな人造湖があって、その周りを一緒に歩く事にした。人造湖は一端が海につながっていて、辺りは広々としている。


 お互いの過去や人柄をそれほど知っている訳でも無かった。が、女が私に対して打ち解け「用心する」という風が無かったのは、父親と思っているせいか。それでも、少なくとも私は歩きながらロマンチックな気分であったのにーーー。あにはからんや、この人生の大事の時に青天の霹靂が舞い落ちた。


 それは模型ではなかった。突然巨大な飛行機がすぐ手の届きそうな真上を墜落しそうになって落下してきた。身をかわす間もなかったから、危ない!! 機長の顔が見えた。神戸空港の着陸滑走路が100mの直近だったから、真上から我々へ遠慮しなかったらしい。

 二人は肝をつぶして仰天したが、抱き合いはしない。立ちすくんで抱かう暇がなかったからだーーー、スリルに満ちたデートコースである。


 無粋な飛行機が通過した後再度平和が訪れて、なお歩き続けて丁度見つけた湖畔のベンチに並んで座った。二人とも若くはないから、玄人好みの渋い話題が中心になったが、ここで話の詳細は重要ではない。


 話が途切れると、対岸がくっきりと見え空気が澄み、青天の昼間だのに寂しいくらい辺りに人影が無かった。飛行機が落下する時以外は、し~んする音だけしかなく、まるで広大な砂漠の真ん中にたった二人いるみたいである。仮に大声を上げても空に吸い取られて誰にも聞こえず、絶対に人は助けに来ない。

人生に悪事のチャンスはたびたびあるが、今こそ間違いなく、その危険な時であり、その場であった。


 突然、女の目つきが大胆不敵に変化したのに気付いた。今まで言わなかったが、この女実は多少キチガイの風があるのだ。女はおもむろにハンドバッグから七色に彩色された綺麗な長いベールを取り出した。絹製だと言う。


 こっちを油断させる為か、意味ありげに私へ見せて触らせた。事前に用意して来たのは明らかで、絹製とは言え強度は充分で確かに丈夫そうだから、引張っても千切れる事は絶対にない。凶器としても使える。やおら力を込めてキュッキュッとしごいてから、それを両手にかざした女がバッグを置いたまま、ベンチから一人立ち上がった。


 背が高い上に、顔面打撲の腕力充分なタイプである。ベールでいよいよこっちの首を絞めるのだな、とギクリとして寒気を感じた。けれども、緊張で声を出せなかった。外に誰も居ないから出しても無駄だ。こんな時こっちが少しでも逃げる様子を見せたり相手にその疑いを持たせるのは最も危険だ。豹みたいに素早く飛びかかってくるのは間違いない。

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