グイとやれば
女の話が一区切り付いた時、私は自分がごく最近発明した「SAKIワシャ」のサンプル(=ナットとボルトを組み合わせた手のひらサイズの模型)をカバンから取り出した。それを使って、手品をして見せた:(ナットをボルトに締め込んで見せてから)「ご覧よ、ほら。これって、不思議なんだよ。このナットは絶対に緩まないだろ! でも、緩め方はこうやるんだ」。
女は模型を珍しげにいじくり回して「ほんとねえ!」と言って、不思議がった。
種明かしに、原理を説明しようとして思案した:
以前居たウチの女事務員はクセで、ボルトの事をオスねじと呼び、ナットの事をメスねじと呼んでいた。周りはおかしがったが、それが専門用語だと彼女は信じていた。正しくは、オネジ・メネジと言うべきなのだが、正式名称ですらいかがわしいのがウチの業界だ。
この仕事熱心だった女事務員がこの場に居て、もし手品の種明かしの説明をやるとすれば、間違いなくこんな風になるに違いない:
「このオスネジをメスネジに・しっかり挿入して・思い切りキツク・奥へ当たるまで・いっぱいに締め込んで下さい。抜くときは・メスネジを動けないように・こうしっかり押さえ込んで・オスネジをグイとやればいいんですーーー」
これは、確かに100点満点の技術的説明なのである。けれどもーーー、と私は考え直した。第一ここは性教育の場では無く、フランス料理店なのである。オスネジとメスネジの言葉づかいだけは止めなくてはならない。
仕方無くーーー、ネジのギザギザの部分の力学の話に終始したけれど、果たして女は手品の原理を正しく理解して呉れたろうかーーー?




