スルメの話
私は主として聞き役だったが、自分の夢を女は英語をしゃべるみたいに、よどみなく流暢に語った。話の内容を本人は非常に良く分かっている積りらしかったが、流暢すぎてこっちは全く理解出来なかった。
それでも、「ふ~ん、良く分かるよ、それは実際大変だよねえーーー」と相槌しながら、分かった振りをした。
理解した風なのを眺めて、女は私の知能の高さを褒めた:「私の話を分かってくれる人は少ないわ。案外私って、知的な人が好きなのよ!」
私は昔から、こんな場合の女の誤解は解かず、むしろ強める事にしている。
「教室を開きたい」というのが女のプロジェクト。内容が良く分からなくても、こっちは販売業務のプロ中のプロだから絶え間ない品質管理には慣れている。ウチの会社の場合の悩みと同じく、いくら立派なプランを考え付いても、どうやって売るかーーーというのが大きな問題となる筈だ。どうせ女はそれと同じ状況に違いない:
「成功のポイントは、(教室の)生徒をどうやって集めるかだろうね」と試しに言ってみた処、女が一瞬ギクリとした。痛い所を突いたらしく、直ぐに顔が晴れから曇りに転じたのを私は見逃さなかった。 「そうーーー、なのよねえ」と、女は厳しい現実をスルメみたいに噛みしめた。これで両者の意見がついに一致をみた。
女の表情を見て、話が飛躍的に複雑になりそうな気がした。けれども、ここで女の夢を粉砕しては可哀想だ。私は慌てて話題を転じようとした。
スルメの話や女が得意とする体を伸ばすヨガの話なんてのは、もっとリラックスした場所でやるべきだったのだーーー。例えば、ホテルのベッドなんかが一番最適で、寝転びながらじっくりやらないと難しい話なんて出来やしないものだ。鉄みたいに硬いレストランの椅子の上では、嫌悪感が募るばかりですんなり行く話ももつれてしまう。




