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感無量!

6.感無量!


 修練を重ね腕を磨きバタ足も加速し、それから三年が経った。


 骨と皮と僅かなすじ肉という三拍子揃ったハンデがありながらも、鍛錬と精進を重ねた。テントの張り具合によって記録が「伸び縮み」する不便さに悩まされつつも、今日に至った。この歳で成長を続けられるというのは、老人に生きる希望を与えてくれる


 数日前ついに、努力を評価されて、年齢別シニアコースに出場しないかと声を掛けられた。さもありなん、無論鷹揚にうなづき返しはしたが、出場に先立ち、久しぶりに正確なタイムを測定することにした。時計は精巧なセイコーである。


 さて、当日金曜日は体調も良く、タイム測定にはベストコンデションで、腕をしごいた: 息を整え、スートラインで一旦体を水中に沈めるや、プールサイドを力強く蹴ってクロールで発進。間違えて空中に舞い上がる人がいたので、以後派手な「飛び込み」は禁止されているからだ。


 初めの数メールはそのまま水中潜行で、存在を隠して誰か知らずや。六米先で深海からサメが浮上するみたいに水面に顔を出すや、力強い腕のストロークの連続。顔面は鋭く引き締まっている上に、腕はスジ肉が凸凹と盛り上がって割り箸みたいに逞しい。二十五米の折り返し点も、素晴らしいクイックターンで仕上げたから、この時ばかりは、周囲が目をみはった。


 続く後半のラストスパートこそ重要。激しく水煙りを上げてイルカの如く猛スピードで突進し、死に物狂いで水をかいた結果ーーー、心臓も破れよの臨界速度に達した。余りのド迫力に、人々は片時も目を離せない:「ヤツは、死ぬのではないかーーー」用心して、プールサイドではAED※が手早く用意された。    ※心肺蘇生装置


 なだれ込むようにしてスタートラインまで戻って来て、五本の突き指も恐れずタッチパネルへ猛タッチ。不思議に未だ生きていて、生々しい位に新鮮だ。ゼイゼイ咳き込みながら顔を上げると: 何とーーー、ああ神様、三年前の60秒の記録に上乗せすることたった7秒! 67秒でありました。

 加齢の速度が、ついに鍛錬の速度を追い越した記念すべき日であるかと思うと、感無量でーーー、実にガッカリした。


 完

比呂よし



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