99.9パーセント
8. 99.9パーセント
後見人を断られ遺産も辞退されて二人はがっかりした風だったが、私はこう話した:
「法的な後見人にはなれないけれど、(神戸と岡山で少し離れているが)車で走って来れば二時間ですから、何か事があれば直ぐに来て上げられます。新幹線もあります。出来得る限りの援助と手助けを惜しまないから、私を頼りにして呉れていいですよ、約束します。
「その為に金銭的な報酬も交通費も要らない。私はそうするのが嬉しいからです。私と母親は、私が小二の時代に岡山の人達に大変世話になった。もう居ないけれどお祖父さんにもお祖母さんにも、それに泰子さんにもです。泰子さんを通じて、それらの人達へお返しをしたいだけーーー。それに、泰子さんの中にーーー私は亡き母の面影を見る気がするのです」
「やっちゃんを好きだから」とは、流石に言わなかった。
泰子さんは少し涙ぐんだ。遺産は寄付する事にした。ユニセフではなく盲導犬協会(無くなった一人娘が犬を好きだったから、というそれだけの理由で)に決めて、遺言書の作成も進めている。
以来約束通り、或いは安心して貰う為に、少なくとも月に一度は必ずこちらから泰子さんへ電話する事にしている。大抵会社が休みの土曜日の午後からに決めている。一時間ばかりとりとめのないおしゃべりをし、一時間の内99.9%は泰子さんが一方的に喋りまくり、私に与えられる許容時間は0.1%である。
「仕事は忙しいの?」と時々訊かれるから、
「いいや、少しも忙しくはないよ。暇なくらいです」と、応える事にしている。
電話の最後に、泰子さんは「じゃあ、ヒロシちゃんも、元気でね! XXさん(私の配偶者)によろしく」と、何の前触れもなく突然ガチャリと向こうから切る。切られ方はアッと言う間もないから、こっちは慌てて、もう少し話しをしたかったなーーーと毎回何か心残りがある。
けれども、これが一番良い電話だったのだと後で思い直している。なぜならーーー、どうやら私は泰子さんに好かれているようだから。




