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人生の皮肉

 こっちの薄くなった白髪頭を見れば一瞬にして分かる筈と思うが、泰子さんが錯覚する程に私は若くは無い。それに神戸と岡山の距離を考えると、地理的にも物理的にも出来ないと正直に思ったからだ。安請け合いは簡単だが泰子さんに対しても夫君へも、中途半端な事をしたくなかったからでもある。

 それだけのお金はあるのだから、高くついても後見人は信頼出来る弁護士に任せた方が良いと思った。


 同時に、(大変ありがたい事だけれども)巨額な遺産を譲られるのも辞退した。

 これが起業してウチの会社の立ち上がりの若い時期なら、営業所を開設する資金とか運転資金とか、のどから手が出る程財政的援助が欲しかったに違いない。欲も出たと思う。


 けれども現在の私は、完全と言えないまでも借り入れ無しに会社の運営は何とか自力で賄えるくらいの形にはなっていて、経営も安定している。特段の計画も無いのに、会社的にも個人的にも今さら大金を貰っても仕方がないからだ。因みに、積み立てて火星旅行をする趣味も無い。


 振り返って、会社が立ち上がりの時代、お金の不足で私達夫婦は確かに苦労した。それが為に売上増進に力を入れて夜遅くまで働き、経費の節約に腐心し、経営にも損失を大きくしないように知恵を尽くしたものである。


 こんな起業の真っ最中に、もし後ろ楯に莫大なお金が潤沢に用意してあったなら、私たち夫婦はそこまでの努力をやったろうかーーー? その後の会社は到底成功出来なかったと思う。立ち上がりの苦しい時にお金が無かったのが、会社ひいては私の人生の飛躍のバネになったのである。


 仮に私が遺産を受けるとするなら、巡り巡ってやがて私の息子たちや孫達に行く。それが彼らの人生に害こそ与え、自分の経験値に照らして決して良い結果にはならないと断言出来ると思う。私の配偶者も同じ事を考えている。

 お金の役割とは人生にとって何だろう? 無い事がバネになり、生きる緊張感を与える。持ち付けない金は無い方がよいのだ。


 それにしても、使いたくて欲しい時には無くて苦しみ、要らない時になって、どっさり上げようと聞かされるのは実に人生の皮肉だと、思わずにはいられない。


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