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ショック

6.ショック

 私が小六の時だったが、例年通り夏休みに岡山へ遊びに行った。この時に泰子お姉さんが間もなくお嫁に行くとお祖母さんから聞かされた。そうかーーー、女の人は大きくなったら嫁に行くものなんだ。居なくなると知って、酷く気落ちしたのを覚えている。


 大人になると、男はまず職に就き自活するのが社会人の第一歩で、これは今も変わらないが昔の女は違う。女は大人になると嫁に行くもので、それが社会人の第一歩だった時代である。私が大人になるまで、やっちゃんは待つ訳には行かなかったのだ。


 それから数日後に、結婚するという相手の男が実家へ来訪した。時間があってたまたま二人で屋敷の裏庭で、バトミントンをして遊ぶ機会があった。初めて会って、受けた印象を覚えている。

 当時の私が知っている大人の男と言えば、自分の父親や近所の人や学校の先生達の範囲であった。ネット越しにバトミントンの羽を互いに打ち返しながら、男が外のどの大人達とも違っていると感じた。


 なぜそう感じたか良く分からないが、決断的な物の言い方や小学生を相手に会話がとても敏捷だった為かもしれない。頭の良い人だと感覚的に分かった。自分の頭が悪いくせに他人の頭の程度が分かるのは不思議だが、嗅覚が発達していたからだろう。私はバトミントンの試合に負けた上、相手がとてもハンサムだった事も合算して、三重にショックを受けた。


 採点した三つの高い評価に、自分で強い嫉妬を感じた。対抗心に似たものを抱いたのは、無論背景に泰子お姉さんが絡んでいたからだ:この男に盗られるーーー。小学校の成績もいまいち芳しくない自分は、到底敵わないーーーと知った。


 何年か後に私が大人になり三十を過ぎたころであったが、結婚後夫君が起業して会社を立ち上げ、岡山市内でバリバリ活躍している様子を伝え聞いた。これを知った当時の私は、少しも驚かなかった。昔バトミントンをやった時に受けた(他の男たちと違った)印象と、正しく整合性があると思ったからだ。

 ボンヤリ見えても子供の感性には鋭い処があり、小六にして私は夫君の能力と将来性をちゃんと見抜いていたのかーーー、と今にして不思議な思いがする。


 泰子お姉さんが嫁に行ってからは、直接呼び掛ける機会は無くなった。何かの拍子に間接的に言う時には本人の了解なしに「泰子おばさん」と私は呼ぶようになった。「やっちゃん」も「泰子お姉さん」も、おかしいから。


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