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ツンと上向きにする

4.ツンと上向きにする


 私は品質の良い女に昔から目がない。見つけ次第、醤油とワサビを持って駆けつけ、振り掛けて食べたくなる食人種なのだ。今回醤油こそ手元に無かったが、早速それとなく隣接のレーンへ移動して、話し掛けた:


「とても速いね、信じられない。僕は往復60秒掛かるんだ、貴方は水泳の選手なの?」

「いいえ、選手じゃないわ。でも、もう何年も長く泳いでいるからーー」と謙遜した。


 謙遜したのに、鼻をツンと上向きにしたのは矛盾だが、とり澄ました顔に得意の色がある。昔の私のセールスマン時代の経験から言うと、こういう女王タイプは難しそうに見えて、かえって落とし易い。若いオス達が気後れして寄り付かないからで、案外周囲りが手薄になっている。こっちはそこを狙う。

「貴女の泳ぎには無駄が無くて、美しい。イルカみたいだ」と追い討ちを掛けて見た。

「イルカだなんてーー」と軽く笑って、あとは否定せず、女王の風格を漂わせて微かにうなづいた。


「僕もヘタなりに練習中なんだけれどね、上手く行かないんだ」

 下手したてに出るに限る。こんな時は、ヘタという事自体が武器になる。どんな女にも母性本能というのがあるから、そこをくすぐる。

「ウフフーー」と、女王は余裕を見せた。

「クロールを速く泳ぐには、腕と足とどっちを優先すればいい?」

 私は昔のインストラクターに教えて貰って、答えは「腕だ」と知っているくせに、知らない振りをした。何でもいいから沢山引き出してしゃべらさないと、女のラチというのはかないものだ。


「私の場合は腕ね、力強い腕のストロークが一番よ。次に足も重要よ。腰のひねりもーーー」と、女が明かした。

 ウグイスみたいに美しい声だったから、ついうっとり聞き惚れて、内心で叫んだ:醤油!醤油!


 腕が第一と言われて、女王の腕をチラと見た。なかなかたくましく、蛋白質も充実してプリンとしている。そこへヒジキのような腋毛でも有れば、醤油が滲み易くて味が良くなるのだが、残念ながら剃ってある。次に重要だと言った腰の辺りを見ようとしたら水中だったから、代わりにバストへ目を移した。触りたいけれど、ぐっとこらえた。

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