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長者番付け
元々それだけの才覚があったからだと思うが、結婚後に起業した夫君は狂ったように働きまくり、ローカルながら岡山の広告業界で成功したのである。
初めは割りばしの紙袋の印刷から細々とスタートして、やがてTV時代の幕開けという時流に乗って、目端を利かせて岡山テレビへ出入りする有力な広告デザインへ会社へと活躍の場を広げた。そこは生き馬の目を抜く競争の激しい業界だったから、実力のほどが分かる。
夫君はそんな成功物語の主役だったが、歳が行き後継者の問題で悩んだ。よくある話で小企業の後継者難で、結局経営者に相応しい人を見つけられず、折角の会社は七十歳になって、他人へ売却してしまった。株式が時価の二倍で売れたそうで、売却した年には岡山市の長者番付に載った位だから、今や夫婦は富豪である。
離婚しなくてよかったじゃないのーーー、と私は泰子さんの為に思うのだが。