鎌をかける
3.鎌を掛ける
「素敵!」の励ましに応えて、こっちは新しい特技を紹介した: 「サイボーグのせいか、眼がちっとも疲れなくなったんだよ。これが不思議。貴女の顔を見詰め続けても、見飽きる事がなくなった。それに、眼を開いたまま眠れるようになったから、夢も最後のシーンまでちゃんと見れるし、夜中の用心の為にも大助かりだよ」
これに、女は「キャハハ!」と笑った。女を笑わせたらーーー、バクテリアには感染のチャンス到来だ。早速鎌を掛けた:
「よく見えるようになると、世の中ってこんなに明るかったんだね。貴女の肌がそんなに白かったのは全然知らなかったよ」
「あら、嬉しいわ」
「バイラバイラを踊る時のシマウマの黒いタイツ姿も好いけれど、脱いだら、白い肌がもっと素敵だと思うがねえ。よく見えるように密着して、確かめてみたいなあ。生きる希望がムクムク湧いて来たから、誰かと恋をしようかなーーー」
確かラブホは近所に有った筈だからーーー、食事の後半戦をそこへ持ちこもうと、巧みに頑張ったのである。若い時のように、付け回してそこらじゅうの女を捕食するという訳には行かない。
女はビールをこくこくと飲みながら、川のメダカみたいに上目遣いで警戒した。ついで血が滴りそうな分厚いステーキを切り分けながら、女は残酷である:
「ムクムク恋をするのは逞しくていいわ、大賛成よ。但しーーー、私とだけは止めてね!」とナイフをきらめかせて釘を刺したから、こっちは甚大なショックを受けた。「清く・正しく・美しい」女だが、「情けと湿り気」は少ないらしい。
取り敢えず、女を軍門に下らせるにはナイフを捨てさせる必要がある。人生もあらかた済んだこっちは、これといって見せるべき肉体美も無いが、皺の多さと深さが奥行きを感じさせる筈だ。他方のヤツだってもう二十歳じゃないんだ、「散る花を惜しむべしーーー」と説得すれば、奥行きのある男に未だチャンスがあるに違いない。その為に今度は、和食の店にしないといけないかなーーー。
とそう思ったものの、月々の小遣いが五万円ポッキリのこっちは、軍資金がもつかどうかが問題。仕方がないので、シマウマとの恋は取り敢えず保留にして、今度は「死ぬ夢」を見る事にした。