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俳句の女

3.俳句の女


 水泳の良いところは、大量の水。私のような六十七でしなびた「干物」も、漬かってふやかすと、骨ばって油の抜けた部分がみずみずしさを取り戻す。スルメがイカに戻るような便利さで、肌がツヤツヤして来る。お蔭で男も女も皆若やいで見える。バチャバチャやりながら、年甲斐も無く「雑念」が湧くのは、こんなツヤツヤしい環境のせいである。


 先程の「死なない」女は40過ぎと言ったが、水のふやかし効果を入れると、本音の実年齢はきっと60前に違いない。が、細かい点に拘らず、つやつやした肌に騙されたまま行くことにした。観察を続けると、往復の忍耐力だけでなく、彼女はスタイルをきっちり「型に嵌めた」ように決めて泳ぐ。


 クロールの時には、水中から抜いた腕を高々と差し上げたかと思うと、再度水に入れる時にどうやら水面に対して角度をきっちり45度に決めてあるらしい。肩の凝りそうな泳ぎ方だが、分度器で測るみたいに慎重で正確だ。


 ただ不思議な事にそんな努力の甲斐が無く、ちっともスピードが出ない。二歩前進一歩後退みたいで特異な泳ぎだが、込み入った事情がありそうには見えない。恐らく以前に習った水泳教室で講師から、腕は精一杯高く上げて、バタ足の頻度はこれくらい、手は「この角度」で水に入れるのが理想です、とか教えられたに違いない。教えにきっちり従っているから、余程真面目な女だ。


 角度の外にも規則性があるかと思って、念の為に腕の動作とバタ足と息継ぎのリズムをそれとなく計測してみると、やっぱり五・七・五の形式になっている。時々は乱調の五・七・五・七・七の形式に変化する時もある。よって、「俳句の女」と名づけた。


 私は隣のレーンに移動して、女がスタートラインに戻って一休みする時を狙った:


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