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蟻の社会

 こうなればしめたもので、社長程気楽な商売は無く、これで名経営者と言われるのだからこたえられない。近年入社した社員なんかは私を眺めて、「ウチの社長は気楽でいいよなあーーー」と思っているに違いない。

 さてここで、視点を少し変えて「会社とは何か?」を考えてみよう。この辺りに正解のヒントがある気がする:

  

 最近本を読んでいて、面白い事が書いてあった(申し訳ない事に著者と書籍のタイトルを失念したが):「社会の仕組み」についてであった。私流儀の考えが所々(悪い方向に)混じってはいるが。


 例えば昔々、路に人通りの多いのを見て、誰かが団子を作って道端で売り始めた。忙しくなり、若い女を売り子として雇った。女を目当てに客が増えて団子屋は儲かった。売り子も沢山給金を貰えて幸せ。これはあり得る話だ。


 真似て近所で別の人が草鞋を売り出した。傘も置けば良かろうと店を広げた。こんな風にして初めの団子屋を切っ掛けに辺りに別の店が次々増え、増えるにつれて人が集まり、家も増えて小さな街になった。生活用水を賄う為に井戸を掘ったが間に合わなくなり、住民の為に川から用水路を引いた。社会インフラの整備である。これもあり得る話だ。


 中には悪い事をする人も居るから、消防団が作られ規則を定めた。やがて法律となり、違反者を入れる牢屋も出来た。こうして安全な街は安定し発展し、経済的に豊かになって行き、インフラも含めて「一つの社会」が出来上がる。簡単に言えば、これが街の成長と社会組織の仕組みである。考えがあって誰かが初めに計画したものではない。


 さて、「一つの社会」と書いたが、一字を入れ替えると「一つの会社」となる。この社会は、団子屋から始まって「勝手に作られ、勝手に儲かり・勝手に拡大し・上手く機能し・街へと発展」している。面白いのが、この社会が発展する過程に、必ずしも上司も部下も、全体をまとめて経営する社長に相当する偉い人も居ない(=必要が無い)処だ。


 命令が無く管理監督者も居ないのに、自律的に機能をしている。人はこんな社会の仕組みに慣れ切って当たり前と思い、(多分)上の説明に違和感を感じないだろう。けれども、これは考えて見れば「とても不思議な」人の社会である。発展が自動化されているみたいだから、人の本能なのだろか? 


 よく知られた蜜蜂や蟻の社会に似ている、と私は考えを巡らせる:進化で遠く掛け離れた存在だと思うのに、昆虫と人に共通性があるというのは面白い。蟻の社会を眺めて「やつらは(人間みたいに)賢い!」と人は大いに感心するが、その実正反対だ。進化の歴史で多分蟻の方が先輩だろうから、本当は人が蟻の特許を「そっくり真似ている」のである。


 サルが如何に知恵があって進化しても、こうは行かない筈だ。これを思うと、人間が人間たり得るのは、サルよりも算数や言語が出来るからなのではなく、先の通り社会を作り上げる自律経営が出来る能力のせいではあるまいか? 研究の待たれる処である。

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