ブランコ
3.ブランコ
確かにそうだとはいえ、それでも創業して三十数年、過去のバブル期もしぶとく生き抜き、一度も赤字を出した事がない。この間に何社かの同業者が消え去っているから、その意味では「何故上手く行くのか」は、考えて見る値打ちがあるように思う。
(社員達は毎日の生活が当たり前みたいに考えているせいか、誰一人そう思っていないが)、税理士を含めた外部の人達から、私は名経営者と見られている。先の実績が根拠と思うが、しかし、そう見られながらも健康法と同じで、どの部分が「名」に相当するのか、彼らに分からないといった風がある。
顔の悪いのと様子がぼんやりしているせいか、切れ者に見られた試しが無い。秘密を探ろうと疑い半分にそれとなく訊かれる場合があって、こっちは親切の積りで「脳と知性にはたんぱく質が重要さ。トンカツが好きでね、駅前で週に一度はトク(特大)ヘレカツを買うんだ。それを三分の一づつに切り分けて毎朝四日食べるのさ」と話したら、ますます信用を落とした。社内で着ている服もよれよれで、確かに私は「見栄え」で大分損をしている。
「(大して何もしなくても)上手く行く」理由は、良く分からないけれども、何となく「推測は出来る」気がする:それは私の信念や卓越した経営哲理や優れた(?)人格のせいではなく、「会社の文化」のせいではないかと考えている。曖昧な言い方だが、例を挙げて説明したい:
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会社の経営というのはーーー、遊戯場のブランコみたいな処がある。揺らし初めは、足腰に力を入れて踏み板をしっかり漕がないといけない。脚力も要るしコツも要る。が、一旦揺れ始めると、あとは力が殆ど要らない。ちょっと膝を軽く屈伸するだけで、どんどん勝手に揺れ続ける。
会社も似ている。創業当時は、死にもの狂いで働かないといけない。エネルギーが要るし根性も要求される。が、三十年以上も経つと楽なもので、時々チョイと小手先で突っついておれば、ブランコが揺れるみたいに勝手に経営されてゆく。まあ長年やっておれば、突くべきポイントは自ずと分かっているが。だから先の会話の通りで、「ーーーちゃんとやっているよ。しかし大してやっている訳じゃないけどーーー」となる。私はウソを言っていない。




