DV事件か?
質問の主は、「43バツイチ子持ちコンブ」というあだ名の女友達である。たびたびエッセイに登場するので、この機会に少し紹介しておこう:
仮に43としているが、本当の年齢は知らない。貧弱な私に比べて体格のよい女で、レスリングをやるとこっちが絞め殺される。以前は小さな溶接工場の気楽な事務員だったが、丈夫な体を生かして今は介護専門職。老人問題の知識や介護施設の公に知られていない内輪話の大半は、この女から仕入れている。例えば、坐っている人(老人)をどうやって上手く立たせるかの実演を受けた時には、「流石にプロ」と驚いたものだ。
ママさんバレーボールのキャプテンで、チーム名は世界的に有名なコスメテック会社の創業者ココ・シャネルから拝借して、「ココ」。チームの実力派エースが彼女で、「XXXさんのココ」と他チームから枕詞を付けて恐れられている。にも拘わらず、キャプテンが声を涸らしてメンバーを叱咤激励しても地区大会で優勝出来ないのは、メンバーの大半が60以上とくるからで、彼女の責任ではない。この例を見ても、世間は甘くないと分かる。
この女、ボーイフレンドである筈の私よりバレーが大好きで、ココ・シャネルの言葉を真似て、「仕事の為の時間とバレーの為の時間がある。それ以外の時間なんてある訳がない」と常々私へ、こんこんと言い聞かせてくれる。「恋愛の為の時間」を作るべきだと、こっちがしきりに勧めているけれども、ボーフレンドに無関心で、また再婚もしない積りらしい。
スラリと高くて美人だからもったいない話だが、世の中にはろくな男が居ない(=彼女の表現)から、どうやら結婚が面倒くさいようだ。いや、それでも一度こう漏らした事がある:「もしバクテリアを研究する男が居たら、結婚してもいいわーーー」
これは新製品の開発に熱中している私を眺めて、「こういう男なら案外手が掛からず面倒くさくあるまい」と、共通性を考えたのかもしれない。それにしても、バクテリアだなんて、不潔な男が好みらしい。
開発の苦労を私が話したり、出来上がったサンプルを時々見せたりする。写真で実験の様子を示した処、「熱中する姿」を眺めて感動する前にあきれている。先の質問は、多分私の歳(77)を念頭に置いての事と思うが、「死にぞこないの年寄りを死に物狂いに働かせておいて、この会社は一体どうなっているんだーーー? 今はやりのDV事件ではあるまいか」と、不審に思ったに違いない。




