想像するだけ
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「人の恋路を邪魔する気は無いけれど、今回はよした方が良いと思うな。クミちゃんやチヅちゃんにまで噂が立っているのなら、危険過ぎるよ。ご主人に感づかれたら、離婚の理由にされる。しかもあのペンキ屋はロクでもない男さ」
「ーーーー」
「貴方をみると暮らし向きは良さそうだね。今の裕福な暮らしを失ってもいいのかい? ペンキ屋はそんなリスクを掛けるまでの値打ちが無い。今なら未だ間に合う。火遊びは止めた方がいいよ」
「ーーーー」
「バレても、バツイチの彼は独身だから被害は無い。失うのが何倍も多いのは貴女の方だよ。僕も人に偉そうな事が言える人間じゃないけれど、年寄りの言う事は聴くもんだ。お節介を焼くのも、普段から好きだからこそさ」
「かもねーーー、貴方はいい人ね」
「うん、目で舐め回す以外はねーーーアハハ」
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「シャーロック・ホームズみたいーーー」
「貴女は本を読むんだねーーー、ホームズを好きかい? 僕も若い時分、コナン・ドイルを殆ど全部読んだ」
「何にも無いのに、貴方は何でも知っている。知らない事には推理を働かせるから、怖いわ」
「人に時々そういわれるーーー」
「でもーーー、何の証拠も無いのにーーー」
「確かにーーー、僕には何の証拠も無い」
「そうーーー、でしょう?」
「でもね、ウフフ、安心しちゃいけない。ある夜、不審を感じたご主人がジムへ電話を掛けて来たらどうする? 「用事があるので、ウチのxxxを呼んでくれ」と言われて、コンピューターの画面を見たスタッフが「今夜はお休みしています」と応えるかも知れない。つまり無い筈の証拠を、貴女が自分自身で作り出すんだーーー」
「私を脅すの!?」
「いいえーーー、そう想像するだけです」




