美人の税金
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「ハハアーーー、それで震源地として僕を疑っているのかいーーー?」
「そうーーー」
「ふ~ん。でも、その疑いは合理的でないよ。話し掛けられて僕がクミちゃんと話をしたのは、一週間前が初めてなんだものね。噂の広がりはそれ以前からなんでしょ? これは震源地が少なくも僕じゃないって事の証明になるね」
「ーーーー」
「クミちゃんが自分で勝手に気づいたのかなーーー? それを「人から聞いた」と言い換えたのかもしれないな。それなら、女の勘は恐ろしい」
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「貴方がクミちゃんに話さなくても、ホラ貴方には男のお友達がいるでしょ、あの歯の欠けた人もそうなんでしょ?」
「ああ、山口さんの事だね、ヤツは67。僕から見れば若造さ」
「名前を私は知らないけれどーーー」
「彼とは親しいけれど、僕は貴方の噂話を彼にしたことは一度もないよ。何度も言うように、僕は口が堅い。もし疑うなら、貴方から彼に訊いて確かめてご覧よ。「私の事を何か聞いたかーーー」ってね。」
「ーーーー」
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「貴方のダンスを時々眺めているけれど、何時も美しい人だと思っている。身のこなしが、とてもしなやかだね。見るのが愉しみさ。僕は貴女の味方だよ。僕に唯一欠点があるとしたら、ダンスを眺め過ぎる事だよ。でも、動く芸術品に触る訳じゃなし、それくらいの愉しみは構わないだろ?」
「ええ、全然構わないわ。私の体を何時も目で舐め回しているみたいだけどーーー」
「アハハーーー、面白い言い方だ!」
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「それならーーー、僕はクミちゃんと今後話をしてはいけないのかい? 嫌というなら、しないさ」
「いいえ、彼女と話すくらいいいわ」
「貴女は同性から妬まれるのかもしれないな。美人の払う税金だよ」
「ーーーー」




