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夫の写真

 何を思ったか、バッグから女はいきなり自分のスマホを取り出した。指先をしごいて撮りためた自分の家族の写真を私へ示し始めた。

「ほら、御覧なさい。これ、私の母よ」と見せて、こっちを面食らわせた。

「写真の顔にコミックな落書きをしているね、お母さんは八十位のお歳かなーーー? それでも、品のあるお顔だねえ、貴女に似ている。若い頃は美人だったろうな」


「八十三よ。写真の上に、こんな風にヒゲのいたずら描きが付けられるのよ。アプリを使うと、編集出来るわ」

「ふ~ん、そんな芸当が出来るんだね、最近は。一緒に写っている貴方の顔にも付けヒゲがあるじゃないか、面白いね」


「ほら、こんなのもあるわ」

「どれも、楽しそうだね」

「ええそう、楽しいわーーー」

「ーーーー」


 普段話をしたことは無くそんなに親しくもないのに、女は内輪の写真を次々と私へ公開して見せた。破格な親しみようで、これが普通の事とは思えない。慣れない散髪屋が顔そりでうっかりカミソリで少し切ってしまい、慌てて髪の毛をいじって客の注意をそらせるみたいだーーー。


 こっちの注意をあらぬ方へ導こうとする女の切羽詰まった気持ちが、そこにあった。事態が一層深刻なのだろうか。隠そうとして、本音を隠せない正直な女だ。可哀想な気がした。


 見せてくれる中に夫の写真が一枚も無いのに気が付いたが、気付かない振りをして黙っていた。

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