白状した
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「どうして分かったのーーー?」と、女が近づいてきて藪から棒に訊いた。先の胸騒ぎをさせた四十五・六の女で、歳から言えば手頃である。一体何に手頃かなんて訊くな。ダンスが上手な上、音楽に合わせた身のこなしがとてもしなやかな人で、しかも美人とくる。人づてに名前を知っていた。けれども、声を掛けられたのは初めてである。
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「ーーーー」
「どうして分かったのーーー? ねえ」と、女は同じ質問を繰り返した。
「どうしてってーーー、そりゃ、直ぐに分かるよーーー」と、美人からのアプローチにどぎまぎしながら、女に合わせてこっちも砕けた調子を使った。
「どうして?」
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「そうだねーーー、分かるものは自然に分かるよ」
「ーーー分からない事も、貴方は分かるみたいね」
「ーーーー」
「どうして分かるの?」と、女の追及は執拗である。
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「それまでは髪がぼさぼさだったのに、あのペンキ屋(仮名)め、ある日突然身を清めたかと思うと髪をリーゼントスタイルに変身したんだぜ。めかし込んでさ、センスの悪いあの男、普段はとてもあーじゃなかったよ」
「ーーーー」
「普通じゃない変わりようだからーーー、ピンと来たんだ。直ぐ分かるさ、あの男に、何かあるなってーーー」
「ーーーー」
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「背が高いから、顔は悪いが元々目立つ男だ。顔見知りという程度で、僕はヤツとは親しい訳じゃなかったけれど、目が合えばうなづき合う位の挨拶を交わしていたんだ。ダジャレを言い合う事も合ったかな、同じジムの会員だからね」
「ふ~んーーー」と、女は疑わし気である。
「だのに、ヤツめ、ある日を境に急に僕の傍へ寄りつかなくなった。見立つ男が急に目立たなくなったんだから、自分で白状したようなものさ。悪事を勘ぐってしまうじゃないか」
「ーーーー」




