◎第五十九話:「大人の会話:どうして分かった?」の話
59.「大人の会話:どうして分かった?」の話
私は週二で、夕食後にジムに通っている。七十七の歳だから体を鍛えると言うよりは健康保持の為。私はやらないが、ジムにはジャズダンスのコースもあって、私がエアロバイクをごしごし漕いでいる時に、フロアーの一角で二三十人の会員が踊っている。数の内で八割以上が女性。
ジムと隔てる仕切りの透明なアクリル板を通して、時々私はそんな女性たちを眺めている。踊っている人達も大抵が笑顔で楽し気だし、いきいきしているから、見るのが好きだ。ゲーテのこんな言葉がある:「生きているときは、いきいきとしていなさい」 人は何時もこうありたいものだ。
特にパンチの利いたBailaBailaという曲目に人気があって、そんな夜はジムの駐車場が混み合う。中に踊るのが特に上手な人も居て、それは大抵女性だが、踊る姿を見て貰いたい気持ちがあるらしい。年に数回は、別に広い会場を用意してバイラの地区大会が本格的に開催され、ダンスの腕を競うのだと聞く。
このジム内でも練習の成果を人に見せたいのだろう。眺めているこっちと目が合うと、女はにっこりして愛想を返してくれる。名前を知らず話をしなくても心の通う気がして、この歳になっても何やら胸騒ぎを覚えるのはこんな時だ。




