嫉妬した
車も通らず元々人通りの少ない道ですが、遊びに熱中する幼児にぶつからないように私は用心深く避けて通らなくてはなりません。通過する私が向こうから近づいて来ると、それに合わせるように奥さんはゆっくり傍へ寄って来て、幼児の手を引き「あら、邪魔をして、ごめなさいねえ!」と、私へ声を掛けるようになりました。
澄んだ甘い声が、体の芯に沁むような気がしました。目が合うと、アフリカ大陸ぐらいの大きな笑顔で向こうからにっこりします。こっちは小粒の日本列島ですから体が熱くなりドキマギして、真っ赤になります。自宅に帰りついても、ボンヤリしたまま。
そんなにドキドキして心臓と体に悪いなら、通学路を別の道へ変えても良さそうなものでしたが、思春期の高校生ともなれば、いつも体に不健康な方を選択するもの。だから道を変えようとしても、変えられなかった。
まもなく夏の盛りになり、奥さんはそれまでの長いスカートを止めて、ホットパンツを着用するようになりました。丸いお尻の形がくっきりして、長く美しい脚です。目のやり場にとても困りました。が、高校生というのは困る事が好きなのです。苦しいくらいに胸がドキドキしました。
翌日も、やはりホットパンツ。何時もの時刻に私の通過する姿を認め、奥さんはことさら長い脚を強調するような仕草をしました。泳ぐように逃げようとする私の視線を追いかけて、自分のを絡ませ、声を出さずに笑った。
仇っぽく魅惑的でしたが、笑いの中に何処か女の狡さを感じとった。それまでに、そんな感情など一度も持ったことが無かったのに、ネアンデルタール人を激しく嫉妬しました。ヤツさえ居らなければーーー。




