すべっこい肌
同じスーパーへは大体同じ顔ぶれが買物に訪れる。回数を重ねると顔なじみにもなる。自分が食べてみて美味かったものを来店者へ勧めたり、お買い得をこっそり教えたりしてもいい:「しばらく来てくれなかったねえ? 元気だった? 貴女は何時も綺麗だね」の声掛けも出来る。
「貴女」というのが、必ずしもすべっこい肌である必要はなく、さび色で紙ヤスリみたいであっても構わないじゃないか! なにこの歳になれば、相手が最悪男でも猫でも、我慢しよう
「あと十分で仕事が上がるんだよ。この建物の二階にある喫茶室でお茶を飲もうよ。隣のサイゼリアの店でスパゲテイをごちそうしてあげる。なに、スーパーで稼いだ日銭の5000円なんて全部食っちまえばいいんだーーー、余ったら全部上げるよ」
女の欲張りに年齢制限はないから、これで大抵上手く行く。
結果として社会とつながりを保ち、晩飯も旨くなる。仕事場のスーパーまで歩いて通えばジムの代わりの体操にもなるーーー。孤独感に陥りやすい老人の心のケアにもなるし、声を失う事も防げる(=若い人には想像出来ないでしょうが、話をする機会が減った老人(最後に人と話をしたのは十日前だ、というのは良く聴く話)は、声が「出難く・小さくなり・かすれて・結果的にしゃべれなく」なるのですよ)。
そんなアルバイトで、入れ墨もしてなければ、老後は極めて明るい表情をした労働者階級に生まれ変われる訳だ。プライドと金額に拘らなければ、仕事は世に沢山あるから、つまりは何時でも「幸せに成れる」チャンスが転がっている。
けれども現役時代に出世をした人は、幸せに成るのが難しいのかもしれないーーー。




