人生相談
4.人生相談
話の先は未だ長いが、この辺りで結論から先に行きたい。読売新聞の人生案内欄にこんなのがあった:
「自分は65(=定年退職)になって、今後働くべきか(=新たに見つけて仕事をすべきか)迷います。贅沢さえしなければ経済的に、困る事はありません」
そんな相談である。
人生の終盤戦になってさえ他人に生き方を請わねばならないのだから、情けなくもあるが、人は幾つになっても賢くなれないようだ。それはさておき、回答者がこう書いていた(字数の制限を受けている原文そのままではなく、多少内容を噛み砕いてある):
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もし生活の為に「稼ぐ」という差し迫った必要がないなら、一度「仕事」の原点に立ち返って考えてみませんか? (と、公論の新聞となると回答者は優しい)
自分の為にだけ働くというのは、ありそうに見えて実は「あり得ない」ものです。ものを作って売るのも、誰かがそれを食べたり使ったりするから。事業経営でもそうだし、会社員として働いたり、スーパーのレジ打ちでも、ボランテイアで何かの社会活動の一翼を担っても、結果としてそれらが誰か別の人達に役立ったり貢献している事になります。これがそもそも「働く・仕事をする」という事です。
このように、他人の必要になるからこそ物は売れ「仕事が成り立つ」。この意味で働く事は「稼ぎ」であるだけでなく、「人の務め」でもあるのです。そして忘れ勝ちですが、もう一つ。仕事は毎日の暮らしにメリハリを付けてくれる、有難いものでもあります。
「仕事をそういう風に捉える」なら、自分が(社会で)どの役を「選ぶ」かだけです。大勢の人達に賑やかに囲まれてスーパーマーケットの棚に物を並べるか、独りでムシムシ翻訳のボランテイアをやるかなど、お金の多寡を言わないなら仕事は幾らでもあります。原点から仕事を考え直してみたらどうでしょうか。
(哲学者:鷲田清一)




