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他人が悪い

7.他人が悪い

 タンパク質の効果はたちまち現れて、流石に画期的な思考方法を考えついた:

 雪道でスリップしたり斜面デイスクの実験が上手く行かないのは、一体何故なのか? これはひょっとしたら自分が悪いのではなく、全部「他人が悪い」せいではあるまいか! 責任を人になすり付けるクセが、こんな時に役立つとは思わなかった。


 一つ一つを疑い始めた:

 下請けの社長の言動・設計部のA君の証言などを始め、人の言うのを信用せず、初めっから全ての作業・角度の測定方法・焼入れ硬度の測定法にまで疑いは及んだ。特に斜面デイスクの角度θ°については、「図面通りに出来ています」という下請け社長の自信有り気な言葉に、勇敢に立ち向かった。


 行動は勇敢だったが、検査の為にこれといった角度の測定機器が社内に無いのが問題だった。ほんのわずかな斜面の角度の違いが、存続すべきかどうかの瀬戸際になる。学校で使う分度器では精度が足りず、難儀した。


 冬の日、配偶者と自宅で朝食を摂っていた時、窓から差し込む日光が遮られて、自分の手の影が白い壁にくっきり映った。これに目を止めて太陽の恵みに感動した。


 早速日曜大工の店へ出掛けて、畳一畳ほどもある大きな白い板を買ってきた。豆電球で光を当ててデイスクの斜面を何十倍にも延長拡大して、反射した影絵を鉛筆で輪郭をなぞった。それを測って正確に角度を測定するのに成功したのである。労を惜しまないのがパラノイア人の特徴で、退屈どころの騒ぎではない。


 更に一計を案じた:ネットで調べて非常に高級な角度の測定機器があるのを知った。相応しく値段もアッと言う程高級で何百万円する。「将来必ず購入するから」と当てにもならない空約束をして、メーカーの営業マンをウチの片田舎までおびき寄せた。高級機を手軽に持参して実演をやってくれたから、世の中には人柄のいい善行の人が居るものだ。何時か、たんとお礼をしないといけない。


 社内で外の人も数人が一緒に実演を見学したのだが、レーザー光線を三次元に応用する原理で紛う方無き素晴らしい性能だ。「サッスガー!」というため息が機器の周りを取り囲んだ。誇りに思ってよいのはオリンピック出場の体操選手だけではない、これも頼もしい我が国独自の精密測定技術と言える。


 表彰台に立つオリンピック選手みたいに、メーカーの若い営業マンは鼻高々。高い所から鼻風を吹かせて、田舎ッペ達の低い鼻先へ吹き掛けた。このタイミングを待って、いよいよ私の出番である:

「あのう、ちょっとーーー、こんなもんやけど、難しいよ。この斜面測れるかいなーーー」 何気ない風を装って、斜面デイスクを取り出して見せた。


 相手は「なんや、こんなもん、朝飯前の昼寝でやれる仕事やないか」とばかり、レーザ―光でたった3秒で測定した。前日畳一畳の板を使ってやっていた数値と百分のイチまで角度がビッチリ一致した時、私は内心で小躍りした:「300円の畳板で充分だ!」


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