アルキメデス
4.アルキメデス
試作品の製作は、(お前はウソつきだという)問題をあぶり出しただけ。けれども、アルキメデスの至言を思い出した:「正しく提起された問題には、既に解答の半分が含まれているものだーーー」
先人の言葉に勇気付けられた。
先の四つの問題はそれぞれ正しく提起されているから、端から一つづつ解決して行けば(遅かれ早かれ)正解に行き着くのは間違い無いーーーと人は思うだろう。私もルンルン気分で当初はそう信じた。が、あにはからんや、である。
アルキメデスより神様の方が偉いと思うが、次の試練を与え給もうた: 例えば、斜面デイスクの焼入れの硬さを少し変えただけで、動的摩擦は遠慮なく変化し、結果として斜面の角度θの決定に激しく影響を与えた。
それじゃ仕方が無いと思って、逆に斜面の角度θ°をほんの少しだけいじると、それが硬度と摩擦のデータを根底から覆した。四者の間に血縁関係は無い筈だが、なにやら結託した意地悪さと敵意さえ感じたから、もしやと疑った位だ。
先の四つの未知数を含む次元の高い方程式を解くには、このままでは試行錯誤で五年は掛りそうだ。十秒で解くにはスーパーコンピューター「京」が必要で、未だウチで導入していないのを、この時ほど痛手に感じた事はない。
止む無く、五年なら未だ寿命150年には充分間に合うからと、覚悟を決めて手計算に切り替えて始めようとして、ハタと手を打った。大学での材料力学の不勉強がたたって、自分は計算式すら知らないと気が付いたのである。




