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ナイフとホームレス

6.ナイフとホームレス

 私は技術系の人間でもあり、元々学校時代に語学は苦手であった。数学のように論理的に行かない。

けれども人生があらかた済んで振り返ると、長い人生で「ここぞ」と思う大事な時に、いつも私を助けて呉れたのは(学歴や専門の技術知識よりも)必ず苦手科目の英語であった。これは誠に皮肉と言える。


 大きな転職を決断した時にも英語が「切り札」になった。中年になってドイツへ単身乗り込んで合弁会社を設立しようと逡巡する相手を説き伏せられたのもそうだったし、設立後に他の海外のメーカーへ積極的にアプローチが出来たのも、語学力があってこそ。


 ウチの開発したての新製品テンションナットにしても、これから海外へ売り込む為に語学以外にはない。事ある毎に英語が人生を切り開くナイフであったのは決して過言ではない。


 このナイフがあれば、(仮に今の会社が無くなっても)「100を過ぎてホームレスになるのではーーー」という恐怖から解放される。だから機会があれば何時も若い人へ、ライセンスの一つとして「語学を必ず身に付けておきなさい」と話している。多くの若い人が信用せず、ウソだと思うのは誠に残念である。


 昔苦手だった英語が、今では趣味の一つみたいになっているから不思議だ。それなら、英語塾で教えるのも簡単だろうと思うかもしれない。教えるのが今のところ息子達だけとしても、実は人へ英作文を教えるのは初めてである。


 教えるようになってから、毎晩ベッドに入ってから寝込むまでの短い時間内に(それまでやった事は無かったが)英語の小説を読み始めている。たとえ身内であっても人に教える以上、感性をブラシュ・アップしたいという気持ちがある。その意味で、私は根が真面目人間かも知れない。



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