◎第五十五話: 「お稽古事」の話
◎第五十五話: 「お稽古事」の話
1.練習の能率
先のお正月に、今年の「抱負」を紙に書いたのがTVで放映された。幾人かの一流企業の社長さんたちが、黒のマジックペンで画用紙に大書した。書いた内容はともかく、字の上手な人は居なかったが、中でも際立って下手な社長さんが一人いて、「下手さ加減」にこっちが仰天した。「大企業x社長x文字」という対比で、アンバランスに感じたからだ。
際立って下手だった人の顔を改めて眺めると、そんな事で人を判断してはいけないと思いつつも、何とは無しに品も悪く見えてしまう。有名会社だったが、企業イメージが二割はダウンした。終には、アレで日本人がよく務まるんもんだ、と思った。誰にも迷惑を掛けないから、内緒でそこまで思うのはこっちの自由である。
社長になる為に出世競争の厳しさの余り、ついぞ字の練習をする暇が無かったのだろうと同情するが、もう少しどうにかならないものかと「本人の為に」切実に思った。
と書いたものの何を隠そう、実はソウ言う私こそ先の社長どころではなくて、もっと悪筆中の悪筆なのである。放映されたのを眺めて、私は我が事のように悲しみ、同時に自分の恥部をさらけ出されたみたいに恥ずかしかった。日本人かどうかの判定基準まで達せず、これが文字かと疑わせる位だ。人の振りを見て、我が身を反省した。




