手土産
3.手土産
さて、ご招待の手土産には(大き目の)「お花(花束)」を持参するのが気が利いている(=未経験な人は覚えておくといいでしょう)。花というのは値が張る。チョコレートの何倍もするのに、たった数日の命しかない。だから普段の家計から、その為にお金を投じる家庭は少ないものだ。欧州でも同じ。相手をハッと喜ばせる手土産であるのに後へ負担を掛けないから、最も贅沢で気の利いた贈り物になる。
とは言え、お花より実はもっと「大切な手土産」の必要性に気付いている人は案外少ない: 美味しい「話題」の用意である。
元々がビジネス関係の友達や知り合いだから、仕事の話題なら途切れも無くあるが、これを持ち出すのは野暮。家には奥さんもいるし、お爺さんもお婆さんも、多分子供も居る。ここで貴方が「国際派のビジネスマンだとして」敢えて訊きたい: 「貴方は、(彼らと)仕事以外でどんなお喋りが出来ますか?」
追い詰められて才能の乏しい自分が考えた付いたのが、「ジョークの準備」であった。お招きを受けた時、毎回二つ三つのジョークを「慎重に」準備した。内容は品が良くないといけないし、出来れば「日本人らしい」のがいい。面白い話やジョークをこしらえて、分かりやすい英語に直して頭に叩き込んだものである。
予め予測が出来る。興味を持って訊かれる事が多いのは、日本人と当地(欧州)の人との物の考え方や暮らしの違いである。こんな問いに対しては、私は事前に日本の単行本を用意する:
「ええ、そりゃ大きな違いがありますよ。例えば、当地では本を前の表紙(=左開き)から読み始めます。が、日本ではそう簡単には行きません、ホラ、(このように)苦労してひっくり返して後ろの表紙(=右開き)から読み始めます。逆さまなんですよ。しかも、縦書きと来る」
「ただ、便利な処もあります。日本では(このように)、ホラ、文字が縦書きですから、本屋や図書館は楽が出来ます。何でも横書きの当地では、首を直角に曲げて背表紙を読みますから、本屋で首が捻挫するんじゃないかと、心配になります」
「ホラ!」の掛け声を、この部分だけをわざと日本語で言う事にしていたから、Mr. Hola!(ホラ!の男)と言われた事がある。なお、ホラ!は英語に直せば「You see?」(ネッ!)である。イントネーションを上へ揚げる。
それはともかく、周りの人は「へえ、ナルホド、世界の果てには奇妙な国もあるものだ」と初めて気づき、文庫本を手にしげしげ眺めて面白がる。これがチャンスでーーー:




