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招かれる

8.招かれる

 セールスマン時代には、(下戸でもあり、そういうやり方をしなかったから)商売で人を接待する事は殆ど無かった。が、起業後はそういう訳にも行かず、海外の取引先の人を接待したり、相手から招かれたりする機会が増えた。


 例えば海外から来社した客人へ、日本語も分からないのに晩飯を食わせずに放ってはおけないし、向こうで自分へ親切にしてくれた人なら、(当時の粗末な)ウサギ小屋みたいな借家へ招かない訳には行かない。ごく限られた客人ではあったが。


 招くよりも、実は相手から招かれる時の方が一層「気を遣う」。招いて呉れた人は様々であった。中には何処が気に入ってくれたか、連泊で数日間泊めてもらったこともある①。外に、数千人規模の会社の専務(②)のお城のような立派なお宅に夜のお茶に招かれた事もあったし、工場のいち作業者(③)の町中のアパートで夕食をご馳走になった時もあった。

※①Mr. Albinius②Mr.Lalu③Mr. Lumay/Mr.Delcominet


 特にベルギー(フランス語圏)では工場作業者とスタッフ・管理職の間の身分の違いが、余りにもはっきりしていた。恐らく地位による給与格差も日本の場合に比べて「遥かに」大きいのだと思う。

 表面的な付き合いだけでは分からないが、一歩踏み込むと「厳然たる階級社会」の存在に気が付く。欧州諸国全部とひとくくりには出来ないだろうが、比較的自由な雰囲気と思われるドイツでも大なり小なり似たところがある。私は余り好きではないが。


 金持ち・貧乏人の違いと言うのとは少し違って、属する社会階級の違いや学歴の差が露骨である。現在取引しているドイツの会社の社長は、Dr.XXXX(ドクター:XXXX博士)という肩書である。中にはProf.(プロフェッサー:教授)の肩書の社長も知っている。そんな麗々しく飾られた名刺を貰うと、辟易する。


 名刺を交換した相手社長が、Dr.(博士)の標識が無い寂しい私の名刺をつくづく眺めてから、改まった様子で「ご貴殿は、どんなご学位を?」と真面目な顔で訊かれた事がある。((造船工学を勉強したから)「船の設計の大家です、難破船の設計なら任して下さい!」とジョークを飛ばす訳にも行かず)これまた大いに当惑した。


 何十年も昔に取得した学位や学歴に、何の意味があるかと思う。資格を取るだけの才能はあるのだろうが、才能だけではダメなんだよな、世の中。資格を生かし、結果として「今、XXXXの業績を上げています」という「現在の自分」にこそ価値がある。過ぎ去った栄光に拘るのは、私の親は金持ちでした、という程度の意味しかないと思うがーーー。


 知性で世界トップクラスの日本人であっても、黄色人種というだけで今でも上から目線で見る欧州の人は結構多い。なお私の名刺には、Dr.もProf.も社長もCEOもなく、「XX社・代表取締役」だけ。若い女の子に「これって何あに、あなた社長じゃないの?」と首をひねられる。「代表して社員を取り締まっているんだよ」と、警察官みたいな顔をして煙に巻いている。ジョークで遊べる名刺の方がいい。


 図らずもドイツやベルギーでは様々に階級の違うお宅へ招かれて、住宅のサイズだけでなく、階級に代表される家庭の雰囲気の違いに気付く機会があった。上の階級の人が下の階級へ見下げた物言いをしたりする。また女も、どの階級の男と結婚するかによって、値打ちが決まるみたいな処が感じられた。


 それが欧州の伝統と文化だが、日本人としては戸惑う場合がある。私が工場作業者との事を親しげに話すと、露骨に嫌な顔をされて(君はそんなランクの人間と付き合うべきではない)という風な目で見られる。

 我が国にも部落問題や朝鮮人問題とか差別や蔑視があるのを否定しないから、私も聖人振りはしないが、欧州の(一部の?)国々ではそんな(ひそかな)差別の目が各社会階級にいちいち存在するーーーと言えば分かりよいか。

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