ボタン
4.ボタン
同じ先の彼と同道していて、外国人客の宿泊も多いシテイホテルであったが、たまたま上階へ行くエレベータに一緒に乗った。「上へ」と書いてあるボタンの直ぐ下へ英語で「Push a Button」(=ボタンを押せ!)の併記があった。彼はそれを見てニヤリとするや、「Push a Button!・Push a Button!」と聞こえるようにつぶやいて、私の背広のボタンを押したのである。
何の冗談かと怪訝な顔を向けると、彼は「エレベーター」のボタンを指して、「Push“the”Button!」と再度ニヤリとした。
日本人に「a」と「the」の区別は難しい。けれども、英語圏の人が間違える事はない。正しい意味は:
・「Push a Button」:どれでもいいから、好きなボタンを1つ押せ!(→だから彼は私の背広のボタンを選んで押した)
・「Push the Button」:このボタンを押せ(=他のボタンではいけない)
「Push a Button」の(間違った)併記を見て、「ここのホテルマンは英語を知らない!」と生真面目に批判するのが、英語を聞きかじった日本人とすれば、私の背広のボタンを押すのがジョーカーである。
なるほどと思って笑った。冠詞は日本人の間違えやすい処で、良い勉強になったと胆に銘じた。外国語と日本語の違いの典型例で、面白い。どのホテルもそうとは言わないが、読者の皆さんもエレベーターに乗った時には、注意を払って見給え。
大概「Push」一語だけが多いが、無論コレなら正解である。




