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こんなんばっかり!

6.こんなんばっかり!


 全社員の検診が終了して数か月後:会社へ「中年の女性」一人が来訪、市から派遣された保健指導員である。

 県や地区によって違うようだが、当地では「将来病気になりそうな社員」(=今回はメタボが対象)に対して個人面談し、生活改善の指導を行うのが彼女の役目。健康保険組合が社内にあるような大手企業は自前でやっているので、訪問の対象はウチのような中小零細企業に限られる。 


 (将来の)国民の医療費の削減を図ろうというのが狙いだから、当社も協力しないといけない。

 受診した社員十名の健康診断の結果、三名が体重100キロを超えると判明したから、実に30%!の殺人的メタボ率の会社である。脂肪分だけで男になれる、と考えている危険思想の連中ばかり。社名を「すもうとり株式会社」と改めるべきだ。幸いに、私はその中に加わっていない。


 これだけで、厚生省からがんを付けられる:「あの会社め、どいつもこいつも、ぬくぬくと太りやがってーーー」


 先の三名は何故か全て、男子営業マン! 日頃の仕事が余程気楽な証拠で、彼らにとって「天国は死後の世界ではなく、社内にある」のである。体重の重みで営業車のタイヤの目減りが激しいのと、事務所の床の摩滅の早いのが、社長の頭痛の種。次の賞与から弁償してもらわないといけない。


 また反対にウチでは、「栄養失調」の人間を別に一名飼っているのも、ついでに判明した。コレステロールが標準以下で、「超足りない」らしい。「将来病気になり易いのです!」と保健指導員が指摘した。それは、紫色の下着を付けているスラリと背の高い人妻で、「髪の長短」で給与交渉をした例のど厚かましい女だ。ウチでは残業も皆無で、決して過重労働ではないと思うのにーーーあんなに痩せやがって!


 この女、栄養が足りないせいか私の机の傍に寄って来ては、疲れた風でため息を付くのがクセだ。艶めかしいため息だから最初は、「こっちに気があるせいか」と勘違いしたが、言う言葉は決まっていて:「社長、給料を上げて下さいーーー」

 安月給のせいであたかも栄養が足らず飢え死にしそうな風を装うから、人聞きの悪い女だ。こっちが上げてやらないからだろう、仕返しの為か、三時には会社のおやつを人の二倍は食べて栄養を補給している。


 率から言えば、メタボと栄養失調合わせて四割の社員が規格外。ではあるが、社長の人徳というか、ウチには異質なものを受け入れるおおらかさが伝統としてある。違和感も無く、過去十数年四割のアブノーマルに慣れ切っている。が、保健指導員のようなナイーブな部外者には、これが驚愕の対象であるらしい:


 半日掛けて問題社員らへ個別面談で健康指導が行われた。終了後に、責任者として、私はお礼の挨拶に面談場になっていた応接室へまかり出た。こっちの顔を、指導員は真正面からつくづくと眺めてから、開口一番:

「社長さんですねーーー。立派な会社です。因みに、お宅の会社はーーー好んで『こんなんばっかり』選んで雇うんですか!?」

これを聞いて、こっちがビックリ:

「えっ! 何ですか、他社よそは、こんなんじゃないんですか!?」


(比呂よし)



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