引き分け
5.引き分け
順番が来て、いよいよ胃袋の検査である。ドロリとした バリウム剤入りの白い液体が大きなジョッキに満たされた。 外見は山芋をすりおろしたのに似ているが、味にはぞっとする程害意がこもっている。毎年、これを飲む時にはためらう。
「今からレントゲンを撮るのに、胃の内部を膨らませるのが目的です。飲んだら中でガスが出来てゲップが出そうになりますが、絶対にゲップを出してはいけません!」と言い放って、看護婦は山芋汁の「一気飲み」を迫まる。
私の傍には紫の下着を身に着けた彼女が座って注視しているし、周りの目もあるから、男として意気地の無いマネは出来ない。立ったまま平静な様子を保ちつつ、のっつこっつしながらやっとの思いで、ジョッキを飲み干した。胃袋にズシリと応えて、検診着の下で冷たい汗が汗ばんだ。
冷や汗をひた隠して、精一杯の負け惜しみ:
「ーーーふうっ!こりゃ、たまらんな。実に感動的だよ!」
ここまでなら良かったのに、ニヤニヤしながら眺めていた看護婦が余計な一言を付け加えた:
「こたえましたかーーー、やっぱり!」
幾ら何でも、「やっぱり!」と語尾に加えるのは失礼ではないか! 人を見くびっている。67で干乾びたとは言え男のプライドが許さず、直ぐに逆襲を試みた:
「なに、うむーー」
「ーーーー?」
「さっきのは、だいぶ甘口だったな。辛口を頼む、もう一杯ッ!」
油断していた敵は一瞬あっけに取られ、開いた口を開けっ放しにした。ザマア見ろ!口が閉まるまい、男をバカにしくさって、明朝まで開けておけ!
が、流石にプロだけの事はあった。相手は上目遣いでニタリとして、直ちに反撃した:
「あのうーー、何せ人気商品なもので、お一人様一杯づつの限定販売なんです。だから、こうして順番に並んで貰っております」
来年の定期検診まで、勝負は引き分けとなった。




