最後のページ
6.最後のページ
ーーーと、図書館が好きと言いながら、時間的な都合で利用する機会がない。むしろ買うからだ。図書館から直ぐ近所の駅前に大型の紀伊国屋書店があり、ネットアマゾン以外で買うなら、大抵ここで面白そうなものがあれば買う。
遅い時間まで開いていて便利なので、買う買わないは別にして、夕食後の散歩で週に1~2度は立ち寄るのが目下のクセ。無駄遣いさせないつもりで、私の財布の中の現金は配偶者によって一円の端まで常に厳しくチェックを受けているから、買う時はバレないように大抵クレジットカードを使う。
呑みに出る訳でなし、ゴルフで遊ぶ訳でもない。本くらい夫の自由に買わせてくれてもよさそうに思うが、女の古風なケチケチ作戦には閉口する。私が訴えると、「読んでもすぐに忘れるから、無駄です!」と片付けられ、「百を過ぎたらホームレスになるから」と人を脅すのも忘れない。半分は本当だから、反論のしようがなく苦難に耐えている。
私の本への嗜好に冷たい彼女も、実は本好きである。若い時には、私なら読了に一カ月掛かるような本でも、あっという間に読んでしまう。推理小説も好きで読み方に特徴があり、最後のページで犯人を知った上で、初めに戻って読み出すのである。
「そりゃ、ズルイじゃないか!」と私が抗議すると、「結末が分かっているから、途中は熱心に読まなくてもいいのよ」と変な理由を付ける。そうやって途中を不熱心に飛ばせは、読了が超高速になるのは確かだが、一体何の為に読むのか分からない。
そんな比類のない頭脳を誇る女だが、歳が入ってから体調が良くないので、好きな読書をしないようになった。目が疲れるからだと言う。私が気の毒がって、「何か本を朗読してやろうか?」と言ってやると、「この歳で、私が知らない事はもう何もない。だから読まなくていい。知らない事があれば教えて上げる」と、憎まれ口を利く。
兎に角私のエッセイも読まないから、こっちの私生活が色々バレなくて済んでいる。知らない事でも正確に推測の出来る女だから、ウッカリして牙を剥かれないように、用心しないといけない。




