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持ち歌

 あんなに惹き付けられた授業というが、外にあったろうか。英語の知識だけでなく、生意気な中学生に、用務員に比べて自分が小さな存在であるのを自覚させた。

「Just walking in the rain ―――(雨に歩けば)」は、この授業が切っ掛けで、他の生徒達にとっても忘れられない歌となったのでは無かろうか。リズムを口ずさむ時、当時の教室の風景と、黒板に這いつくばうようにして書いていた用務員の姿を、鮮やかに思い出す。


 これを眺めて、図書室の隅の机で用務員が何時も読んでいたのは、外国語の書籍だったんだなーーーと思い当たった。次いで、この学校には「偉い人」が「ロクでもない顔」をしながら、「無造作に」棲んでいるーーー凄い学校なんだと思った。

 用務員の名前を忘れてしまったが、私のエッセイで一度も触れないのは何か悪い気がして、こうして記しておきたい。授業はちゃんと今でも私の中で「生きている」のだから。


 そういえば、週二で今通っているスポージム・アクトスで、私といえば顔じゅうがしわとシミで構成された、うらぶれた痩せた男という見かけだから、どうせ「ロクでもない人間」と思われているに違いない。扱われ方が、最近どうも杜撰( ずさん)な気がする。

 けれども、実は「比類のない頭脳をもつ凄い人間の一人だ」と気取ってみても、仕方ないか。「Just walking in the rain ―――(雨に歩けば)」のような素敵な持ち歌を持ってないからなあーーー。

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