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どっちつかず

4.どっちつかず


 さて、そんな遺伝子を引き継いだのが、ウチの会社。ここで慣らされた営業マン達が、先の「新製品テンションナット」に遭遇すると、一体どんな結果になるかーーーを考えてみた。単純な理論で、こうなる:


 今まで売っていた100万円単位の商品があるのだから、それに15万円の新商品が追加で嵩上げされるから、総計で115万円となる。結果は万々歳で何も心配ない、と言う人もいるに違いない。が、これは机上で考えたアイデアで単純過ぎる。


 実際には、ユーザーの前で従来の百万円の製品の説明をやる代わりに、彼らは15万円のテンションナットの説明をすることになる。それも百万円商売で磨き抜かれたセールストークだから、会社はたまったものではない。15万円のものが売れてしまうからだ。百万円の製品を売る力が削がれて、売り上げが15万円ポッチになる。1/6へと大幅減収である。


 先に安井さんが言った通り、(百万円以上の難しい商品が)売れるのは「アンタにはソレしかないからや」なのである。外に(安い15万円の別の商品)という逃げ道を作れば、営業マンは難しい100万円を売らない。正しく言えば「よう売らなくなる」。


 怖いのは骨折とは違って、体質の変化が一挙に進行するのではなく、枯れ葉が一枚づつ剥がれ落ちるように、気の付かない内に進行する。一旦15万円中心の「安物のたこ焼き売り」へ変わった体質は、成人病と同じでもう元へは戻れない。長年培った文化を失い、どっちつかずになった会社は左前になる。


 販売・営業とは、易しいようで難しい。ベテランの販売課長でも、上のようなことに正しく気付く人は少ない。多くの会社が生まれ、多くの会社が潰れる。が、大概、潰れた本当の理由を、経営者本人が必ずしも分かっている訳ではない、と私は思っている。



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