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悔し~いっ!

4.悔し~いっ!


 女というのは最初に軽蔑を抱くと、容易にそれを悔い改めない生きものだから、こっちからの最初のアプローチは慎重であるべきだ。私は短髪の女が好きだ。それで取りあえず、「貴女は今の長い髪も似合うけれど、ショートカットにしても良く似合うと思うがねえ」と、精一杯の仲良し気分を込めて髪を褒めた。

 話しかけるだけでウキウキし、雨降りみたいにピチピチ・チャプチャプ・ランランラン!♪、とスキップを踏む調子だ。


 ところが何をどう勘違いしたか、三十六の女は押し黙って私の顔をまじまじと見詰めて、そのまま暫く考え込んだ。普段から私の言う事を何でも怪しむ女だ。


 女の考え込んだ様子をつられて、こっちも考えた:今日は検診着一枚でブラも外してある筈だから、オッパイまでは驚異的な短距離で、ひょっとしたら透けて見えるかなーーー。検診を口実にお互いに直ぐ脱げる状態だからこそ、危険ではあるが、一層の親しみを覚えた。女の胸の辺りにチラと目をやりながら、「このチャンス」をどう始末を付けようかと、よこしまな心である。


 並んだ二人が仲良く一緒に考え込んで魔の三秒が経過した時、突然女が思い切った風で沈黙を破った:

「社長! 髪を短く切ったら、給料を上げてくれますか?」


 髪の長短が給料に反比例するというのは、思いもよらない斬新なアイデアである。虚を突かれて、目をパチクリした:

「うむーーー」と、こっちはピチピチ・チャプチャプどころではない。

「ーーーー?」と、女は待っている。

「でもーーー、労働組合が何て言うかな?」

 女は隙を突いて来た:

「ウチの会社は、社長が労働組合長じゃないですか!」 


 何もそこまであからさまに言わなくても-ーー、アー言えばコー言うから、美人のくせに嫌味な女だ。それで:

「でも、ご主人は髪の長い人が好きで、貴女と結婚したんだろ、きっと? 短くするにはご主人とも協議しないとねーー」と精一杯でかわしたら、ウフッと笑って女はやっと鉾を収めた。


 出鼻をくじかれたこっちは女の隣に座りながら、黙って考えた: とんでもない女だ! 髪の長短で給与交渉をするズルサなんて図太いというか、男子社員には無い発想だ。察するに、こっちを組し易い「助平な男」と見たに違いない。男というのはその為だけに生きている生き物とみくびり、ちょっと甘い顔を見せて「ウッフン!」とタメ息でも付けば、たちまち話に乗ってくるとにらんだのだ。


 美人には、こういう思い上がりのタイプが多い。悔しい事に、それが大抵「当り!」と来るーーー。

 それにしても、上司をそんな目で眺めるなんて実に怪しからん女だ。こっちも負けてはいられない、「何でも交換条件優先の女」なんだと、分析した。なに、そうと判れば、反って反撃の一打を返し易い。


「社長、ホテルに行ったら給料を上げてくれますか?」と女の口から言わせるには、どんな風な暗示を与えたら良いか? 知能をフル回転させて思いついたのは:

「ホラ、夜ベッドで寝る時に、長い髪は邪魔だろう? ショートカットならもつれないじゃないか?」の会話が、暗示的で良さそうだ。


 そういう風に言えば「夜」・「ベッド」・「寝る」という浮気専用の三つの検索語が会話に含まれる。そこからの連想ゲームで、勘の良い女は最終目標のホテルまで、正しく察してくれる筈だーーー。セクハラにもならずベストな誘導尋問。

 思い付いたついでに、脱がせたら下着は何色かな、紫色だったら良いのになーーー、脱がせる時に抵抗するかなと思案を巡らせたら、自分の顔が少し赤くなった気がした。


 流石に自分でもきまりが悪くなって、隣に座る女の様子をそっと伺ったら、バッチリ目が合った。ハッとした途端、女が意味有り気にニヤリと返した。読心術を使ったのは間違いない。慌てて目を逸らせたが、余計に赤くなった。

 この反動で、とうとう何もよう言わなかった。女に対して何時も行動の中途半端な自分が、悔し~いっ!



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