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心憎い指摘

5.心憎い指摘


 実は海外にも別な話がある。私は自分の業績を触れて回ることに躊躇しない質( たち)だ。特許を申請した時点で、「こんな事をやっている、間もなく国内で発売しようと思う。なんなら将来貴社へも輸出するぜ」と、英国の従来からの取引先へ高飛車に打診した。

 相手も負けず劣らず高飛車で、「(日本以外の世界中を)オレに任せろ!」と返事を寄越した。世界の販売権をくれろと言うのだから、これまた、ど厚かましい。


 言うことが憎い:

「そりゃ、頭が良いから世界を相手に汝が直接やろうと思えば出来るだろうさ。米国・ドイツ・韓国ーーーと順番に一つ一つ潰して行けば良いからな。けれども汝と言えども、輸出の経験が無いのだから、優れた販売店を各国で一つづつ探し出すのは難儀な話だ。どうやるんだ? 大変だぞ。お前のカタコトの英語で大丈夫か? 


「そんな事をすれば、世界に販売網を敷くのに十年は掛かる。その間には汝だって商売の他に、人並みに死ぬ為の準備時間も要る事だろうぜ。オレは過去からの知識とキャリアがあるから、世界中の優秀な販売店や工具屋を指折り数えて、たちどころに分かるし、親しく知っている。販売ルートを築くのに一年ありゃ、充分。俺に任せろ」と、迫った。

 こっちは女ではないが、「男らしく迫られる」と弱い。ナルホドと考え、彼に任せようかと思案している。


 彼は四十代半ばの切れ者で、ボルト工具に詳しいプロ中のプロ。開発製品の欠点と問題点をたちまち見抜いて、胸をえぐるような鋭い指摘をしたのは流石である。改良すべき品質面と更なる性能実験を要求してきた。発売開始とカタログの遅れは、実は彼の厳しい要求のせいでもある。


 更に心憎い言い草を添えたから、癪に障る:

「お前んちは、自前の工場が無いじゃないか!」

 急所を突かれて、流石に「グサッ!」と来た。実は彼はウチの会社の内情を(何度も来日しているから)よく知っているのだ。

「どうせ製作を日本の下請けに任せるなら、技術のある俺んちの(英国の)工場で作るのも同じ事じゃないか。下請けになって、作ってやるぜ!」

 打ち合わせに年内に来日したいと言う。


 様々な提案に遭って、一体どうしようかと迷っている最中である。欲の皮の突っ張った息子たちは、大反対している:

「英国で製造するなんて、ろくでもない匂いがする。特許の切れる20年先を考えてくれ。その後ヤツにまんまと全部獲られるじゃないか!」


 息子の心配もナルホドとは思うが、それまでに儲けさせてくれるなら、むしろウチはお礼をすべき位なもので、その後はまあ獲られても「構わない」と私は考えるタイプである。第一その時、こっちはもう世に居ない事でもあるしなーーー、というハラなのだ。


比呂よし

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