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凝り性

2.凝り性


 問題の一つは、テンションナットの「緩まない」機能を一度使うと製品の表面が「こすれて」すり傷がつく点だ。傷は見苦しい。擦り傷がついても機能としてナットが緩まなけりゃいいようなものだが、出来れば、再使用・再々使用をするときでも一年生みたいにピカピカであって欲しいじゃないか! 新車で1000km走っただけで、エンジンの性能は変わりなくても車の表面が傷だらけとなったら、誰だって嫌な筈だ。


 この解決に頭を悩ませた末、思い付いたのが2つのアイデア:

 製品のこすれる斜面の角度θをもっと小さくする(=滑り易くする為に斜面を緩やかにする)事。こうすると表面に傷が付き難い。

 次に、こすれても表面がムシレない(傷つかない)ように、「こすれる斜面の金属表面をもっと硬くする」事。瀬戸物の表面の方が、プラスチクのお椀より傷が付きにくいのは経験する事で、これが発想の原点だ。


 と言っても①の角度θをいじるのは気持ちに抵抗があった。「緩まない」という品質に最も関係するポイントだからだ。止む無く②の「金属表面を硬くする」研究に専念することにした。


 が、これが簡単そうに見えて、考えた以上に難関。こっちは造船工学を学んだ人間だから、そんな方面の知識は皆無。第一、「硬い船」なんて聞いたことが無い。

 そこで老人の手習いでスタートし、金属工学から入門し勉強を開始した。ネット経由で研究論文を幾つか読んだ。専門メーカーにも問い合わせするなどもして、夜を日に継いで血のにじむような勉学に励んだら「艱難辛苦汝を玉にす」の言葉通り、背中の形が丸くなって、ついにこの方面の通になった。全部で三日も掛かったから、大したものだ。


 そんな良心的な努力の結果、「表面を硬くする」方法が理論と共に様々あるのを知った:窒化・浸炭焼入れ・表面高周波焼入れ・化学液処理による化学反応など。ドイツの特殊技術もある。コストを含めて、それぞれ特質がある。

 あらゆるケースを試すのは研究としては面白かろうが、こっちは資金にも時間的にも限りがある。何せ、金儲けなのだから。それに、経費を国家が負担してくれる大学の研究室ではない。


 一点か二点を試作して実験したが、どうしても結果が上手く行かず、製品表面の擦り傷は相変わらず綺麗にならない。神経症( パラノイア)というやつで、自分が品質にパーフェクトを求め過ぎるのかと疑った。考えに・考えて・再度考えて、考え過ぎてついに夜も眠れなくなり、代わりに昼間会社で昼寝をした。



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