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◎第五十一話:「やってみよう、科学実験!」(2)の話

◎第五十一話:「やってみよう、科学実験!」(2)の話


1.印刷屋


 先に、新製品「テンションナット」(=絶対緩まないナット)の話を書いた。

 それから一ケ月半が経つが、「一体それは、売れているのかい?」と訊かれそうだ。無論、日に日に評判を高めていると思いたいが、時間が掛かっている。


 実を言うと製品のリーフレット( カタログ)さえ未だ完成していない。私が発明を誇張して語り大きな見得を切った処、これを真に受けた印刷屋がすっかり舞い上がった。何よりも外にすることが無かったせいと思うが、きちがいのように熱中した。私が予定していたA4二枚(裏表があるから4ページとなる)のリーフレットが、驚くなかれ三倍の12ページに膨れ上がった原稿を作成して持参したから、こっちが腰を抜かした。


「ねえ、キミ、それじゃリーフレットと呼べない。机の上に立つよ。まるで本じゃないか、いや、文学全集だ!」

「何を言いまんねん、社長。この素晴らしい製品は先ず「緩まへん」ちゅう理論から説明せんと、ユーザーはんには何の製品やら、チン・プン・カン・プン分からしまへんでえ」と、神戸人のくせに中国語を混ぜた大阪弁を放った。


 新製品とはいえ、こんな文学全集を刊行する訳には行かない。ウチの会社に限り、経理担当重役である配偶者のケチな目を逃れるというのは、あり得ないからだ。私が無駄遣いしようものなら、女の正義と憤怒が炎のように燃え上がるに違いない。だからページ数を減らす為に目下印刷屋と攻防戦をやっている。

因みに、お金のことが気に掛かると、人は幸福度が下がるらしいーーー。私も印刷屋の兄ちゃんも不幸な人々だ。


 発売の遅れについて、実は外にも理由がある:「科学実験」を繰り返している内に、品質に対して色々「欲」が出てくるし、細かい欠点や問題も目に付くようになった。今回はその話:




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