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キャホー!

3.キャホー!


 と先に思わせぶりに書いてしまったものの、スケッチ図無しに何度も説明を試みたがとても難しい。ついに諦めた。代わりにアイデアを次のように説明する。つまり:

「「緩もうとして」ナットが僅かでも身動きすると、反ってボルト側が「余計に締まる」」 そのようなナットを、アイデアとして思いついたのである。


分かるだろうか、このヘンな理屈が? 緩もうとすると締まるだなんてーーー。ベッドで、床へ押し付けた女から体を離して逃げようとすると、僅かな身動きを「察知されて」余計に女に強く抱きつかれるというのと同じ。だから逃れられず → 「緩まない」。

離れようとすると余計にくっ付くから、私はこれを「オス・メスの原理」と名付けている。アルキメデスの原理程には、未だ一般化されてはいないがーーー。


M36のサイスで早速アイデアナットの試作品を作って比較実験をやってみた:先ずM36をそれぞれ同じ力で最初に締め付けて、「緩まる力」(=専門語で緩めトルクという)を普通のナットと比べてみたのだ。驚くなかれ、100で最初締め付けると、結果はこうなった:


・市販の普通のナットは75(75%)のトルクで緩んでしまう。

・ところが、アイデア品は300(3倍)のトルクでも、びくとも緩まない。ここで実験を中止した。なぜなら試験台が壊れてしまうから、怖くなったのだ。


 無理やり試験を続けると、緩むより先にボルトが千切れるかネジ山を毀損してしまう。つまりーーー「絶対に緩まない!」と言うのが証明されたようなものだ。


 けれども反対に、原理が楔( くさび)を打ち込むような仕組みになっているから(図で示せないのが残念だ)、緩めようと思えば、手動でネジ式の楔を引き抜けばよく、簡単に緩められて特別な動力工具は要らない。こうして理想的なナットが出来た。若い頃から山へ登るのが好きな私は、キャッホー!と叫んだが、オフィスだから残念ながら山びこは起きず、老人性孤独を感じた。



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