徳川家康さん
3.徳川家康さん
週二のジムでも、機械バイクを何十分と漕ぎ続けるのは、単調で結構退屈なもの。こんな時、先の歌を小声で呟くように鼻歌風にやっている。若い女性インストラクターが近くを通った時に、聞きつけて寄ってきた:
「何を歌っているのですか?」
「我は海の子♪ーーーだよ」
「それって、どんな歌?」
小声で短く歌って聞かせると、「珍しい歌ね」と言ったから、こっちがびっくり。
「きみ、こんな有名な唱歌を知らないのかい? あの有名な滝廉太郎の作曲だと思うけれど(ウソ)」
「タキレンタロウ? 知らな~い。徳川家康なら知っているけどーーー」
「ーーーー?」
「ーーーー?」
「僕は徳川家康の歌を未だ聴いた事がないなーーー。外にどんな歌なら知っているんだい? 」
「子ぎつねコンコンとか・ヒョッコリひょうたん島とか・蛍の光とかーーー」
「子ぎつねトントン、だって!?」
「トントンじゃなくて、コンコンよ」
世代の違いを感じたけれども、お陰ですっかり仲良くなった。「我は海の子♪」一つでホテルまで同行してもらうのは無理としても、少なくとも以後ジムで顔を合わせる度に、彼女との会話が楽しくなった。
「お客さんって、愉快な人ね。(女の人を口説くのが上手そうだから、と小声で囁いてから)イタリア人みたい!」と、笑った。
「アメリカ人みたい!」、とこっちは言って欲しかったのになーーー。
薄暗い中を一人で散歩やウオーキングをするとなれば、「歌いながら歩く」のを読者にも是非勧めたい。「子ぎつねコンコン♪」でもやれば、吠えられる犬にもめげないし、むっつり・陰気に・黙々と歩くよりは、遥かに楽しめまずぞ。序にロマンチックな彼女も出来るから、揺ぎ無く信じ給え。
ただ、幾ら上手になっても、大声で歌うのだけは止めた方が良い。認知症の徘徊老人と疑われる。
完
比呂よし




