永久に死なない
2. 永久に死なない
身長も測る。年齢と共に髪の毛の減少で、その分だけでも確実に不利だから、対策を考えた。超大型のノギス(=機械用寸法測定道具)に似た測定台に乗った時に、かかとをこっそり浮かせた。コツは、欲張って一センチも上げない事だ。
上手い具合に6mm伸びた。係りの若い看護婦が、昨年の数字と見比べて検査用紙にボールペンで書き込みながら、「あら、だいぶ伸びましたねえ!」と、流し目をくれて不審がった。それで、「へえ、育ち盛りだもんねーーー」と応えて、騒ぎ立てる前に女心を安らかにしてやった。
次に、聴力検査の為にヘルメットを被せられた。狭く薄暗いブースに一人で入るように指示され、ヘルメット内で小さな音が聞こえたら指定のボタンを押すように、と言われた。言い方がぶっきら棒で、三十過ぎのいけ好かない女だ。
ブースへ入ったのに一向に検査が始まらないので、じれて、「早く始めてくれ、未だかい?」 と外へ向かって催促したら、「もう始まっています!」と甲高い声が飛んで来た。
「何だ生意気な、その言い方は無いだろ!」と内心で思った。声の調子が意地悪く聞こえたから、売り言葉に買い言葉でつい「もっと(音を)大きくしてくれ!」とやり返したら、これがワナで敵の思う壺。手元に返された検診用紙を見ると、「左の聴力劣化 マイナス1点」と勝手に書き込まれていた。地団太を踏んだが、遅かった。
次は、血圧の測定である。
私は普段からやや高めだ。 直前にお喋りをしたり大笑いしたら、測定値が一気に「上昇する」現象をご存知だろうか? 私はこれを熟知している。世間では「笑い死に」とか「ポックリ死」という話を時々聞くが、これは「一気上昇」現象をうまく応用した手っ取り早い人生の終わり方なのだ。
こっちは苦しみながらジンワリ死ぬのが好きなタイプだから、手っ取り早い終わり方が嫌い。だから、「一気上昇」しないように測定中は笑うどころか、ニコリともせず、死んだ振りをする必要がある。冷静さを保ちつつ、そろりと幽霊のように血圧測定ブースへ忍び寄った処、幸い辺りに他の受診者が無い。脇からぬっと左手を差し出したところ、敵は油断していた。一瞬ギクリとして腰を抜かしそうにした女を目で軽く制して、黙ったまま我が左腕の方へアゴをしゃくり、「測定に掛かれ」と暗示を与えた。
測定後ーーーふうと息を吐きながら、元のにぎにぎしさに戻って訊ねた:
「ねえ、測定中は息を詰めて、死んだ積もりになって精一杯静かに頑張ったんだけどーーー。いい結果が出たかい!?」
「偉いわ、パパさん! バッチシよ、132でベストです。死ぬまで長生きしますわ!」と保証した。
元々控え目な人柄から見て、この女が実際より控え目に言ったのは百パーセント間違いない。だからもし彼女が真実をありのまま正直に告白したとすれば、「死ぬまで長生き」ではなくて、私はきっと「永久に死なない」に違いない。




