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尻の青い男

2.尻の青い男


 ジムでインストラクターをやっているアルバイトの男の子が居て、未だ尻の青い大学二年生である。女に持てそうにない朴訥とした顔へ、訊いてみた:

「踊っている、あの女性ひと綺麗だねーーー」

「ーーーー?」

「ほら、前から二番目の列で、右から四人目さ」

「ああ、あの人ですかーーー」と、やっと気が付いた青尻は何故か途中で絶句した。

「ーーーー?」と、怪訝に思った私。

「ジムのメンバーさんの中で、ダントツです」

「(ダントツーーー?)」と、今度はこっちが内心で絶句した。

「ーーーー??」と、相手は危険な沈黙をした。


 この野郎、しょうもない顔をしているくせに、油断のならないヤツだ! 若いくせに、女の取り合いでオレと張り合おうってのかーーー。以後二度と青尻とは口を利かない事にした。


 それにしても、ジムへ行くのに愉しみが出来た。たまたま彼女が教室を休んで姿が見えない時には、酷くがっかりした。次の機会に再び姿を見つけると、つい嬉しくなって(チラチラを通り越して)損を取り返すみたいに暫く女の姿を目で追ってしまう。余韻で、その後三日間は人生に幸せを感じる。スボラな私が、キチキチと三日ごとにジムへ通うのは、四日目には「幸せの効き目」が切れて、禁断症状が出るからだ。


 いい年寄りが女の踊る姿に惚れ込んで、よだれを流さんばかりに眺める様は、余り素敵な構図ではない。バレたらイヤラシイと思われるだけだから、相手に悟られないように、飽くまで控えめに眺めていた。


 そんな用心をしていたのに、私が不器用だったのだろう。何度か見る内に女はこっちの視線に気付いたようだ。時々目が合った。運の悪い事に目が合う時に限って、こっちは口が半分開いてよだれが出かけている。慌てて口元のたるみを直して視線を外すが、光の速度はよだれより速いから、間に合わない。

 その内に踊る女から怪しむように見返されて、どぎまぎし、思わず赤くなってしまう。この歳でも、治らない赤面症なのだ。


 気付かれたとしても、こっちは額の皺が割れ目になっているオペラ座の怪人みたいに醜悪だから、身の程をわきまえて女へ近づく事はしなかった。姿を眺めているだけで楽しかった。




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