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◎第四十七話:「ウサギのパンツ」 の話

◎第四十七話:「ウサギのパンツ」の話

老若に拘わらず女の幸せは愛される事にある、と誰かが言った。


1.花の中の雑草

 より健全な生活を送る為に、週二でスポーツジム・アクトスに通っている。現代風な物言いをすれば、お陰で、免疫系細胞が日増しに活性化されている。この歳だ、それ以外に何かいかがわしい目的のあろう筈はない。


 同じ三十分歩くにしても、自宅の周りでやるよりも、ジムのマシンで歩く方が数段利き目があるように思うのは、矢張り値段の違いのせいか? 節約が好きな私の配偶者は、「貴方は見た目と値段に左右され易い」と、言い方は冷ややかである。


 このジムは目の前に明石大橋が望める景色のよい大蔵海岸に立地している。ごみごみした場所より、それくらいな処に籍を置かないと、はばが利かないとジム側も考えているようだ。

 と言っても、昼間は仕事があり、通うのは夕食後となるから、今の季節(三月初め)では既に外は真っ暗で、日本有数の立派な景色を楽しめないのは残念。が、残念があれば、引き換えに良い事もあってバランスが取れるのが人生。それが今回の話である。


 良い事と男が言えば、猫ではなく女の話に決まっている。ジムの夜間のコースにエアロビクス(ジャズダンスとも言う)教室がある。私は教室に参加しないが、広い部屋の一角を透明なアクリルの衝立で囲んだ中で、約三十名くらいの男女がパンチの利いたリズムに乗って踊っている。


 ジム側も、飽きっぽい生徒を辞めさせないように工夫を凝らして、同じ日のワンクール(ひとつのレッスン)でも次々リズムを変えるのは無論の事。更に例えば水曜日の夜は、全員黒ずくめの悪党風な恰好でBaila・Baila(=バイラバイラ:スペイン風南米ラテンリズムというらしいから、インターナショナルだ)を踊らせるとか、クリスマス直前の数日間はウサギの耳の付いた帽子を被せるとか、ハロウインの日はそれぞれが奇抜な衣装を着けさせるとかする。


 お遊戯する幼稚園と大して変わらないが、辞めようかと思っても、お陰で生徒は飽きる暇がない。教室外からも透明な衝立を通して見えて、生き生きと躍動する姿を見る方も楽しい。男女の比率は2/8位で、圧倒的に女の世界である。混じっている少数派の男は花の中の雑草みたいなもので、無い方が良い。


 ある夜、踊っている中に、身のこなしがしなやかな女が一人居るのに気付いた。他の人達とは違い動きに角が無く、しかも美人と来た。選りによって身の毛のよだつ不細工な男の傍で踊っていたから、こっちが勝手に邪魔な男に腹が立って、反動で余計に女が目についたようなものだ。


 四十代半ばのようだが、無論私は熟年が好み。踊る姿がすらりと柔らかく、ウサギのパンツみたいにしなやかで、はき心地が良さそうだから、ゾクッと来る。因みに、私がはいているトラのパンツは、ごわごわしていて三年はいても破れない。


 ジムに行くたびに、先のウサギの彼女が気になった。踊る姿をチラチラ眺めている内に、今まで気づかなかった処へも目が届くようになる:

薄茶の下地に大きなハートマークを大人風にあしらった衣服とか、ちょっとした小物を入れる手持ちのバッグにしても、良く吟味されたデザインが洒落ている。センスが良く、すっかり彼女を好きになってしまった。これが事の始まりである。



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