東日本と西日本
9.東日本と西日本
涙ぐむ時があっても、自分にやや難しいと思われる仕事に挑戦しやりこなしてこそ、人は 「やり甲斐」と 「歓び」を感じる。 価値を認められ、自分が会社を支えていると実感するからだろう。これが会社から「大事にされ」、「愛される」結果になる。その歓びは、貰う給料以上のものがある。保証するよ。
夫婦間の愛も互いに勝手に湧いてくるものと思いがちだが、長いスパンで考えると、努力無しには育まれない。経験者ならこれが分かる筈で、出世する為の努力はこれと同じようなもの。
そういう訳で「河上から河下まで」単純な仕事は一つも無いから、ウチのミニ社長達は会社に「大事にされ」、そして「愛されている」事になる。
若い人達の顔を見るたびに「(パートや非正規労働やお手軽な仕事ではなく)正社員になりなさい」と私が繰り返し言うのは、「(人に・会社に)大事にされなさい」という事であって、「愛されなさい」という意味。「結婚しなさい」と独り者へ言うのも、身の回りに少なくとも一人は「(自分を)大事にしてくれる人」を作りなさいという意味。
仕事も出世も正社員も「ミニ社長の扱い」も、そして結婚も、実は「愛される」という共通のパスワードなのである。念のために、私はレンタルを専門に担当するミニ社長のU君へ尋ねた事がある:
「仕事は面白いかい?」
「とても好きです」
そりゃそうだろうさーーー。ミニ企業と言えども「経営者」なのだから、前職のトラックの運転手よりは余程面白かろう。誰でも社長の気分を味わいたいものだ。少なくとも退屈しているようには見えない。
当初は、私自身の多忙さが故に採った放任主義であった。これが図らずも結果としてミニ社長のシステムへと発展した。今となってみれば、単に仕事が「退屈しない」というだけでなく、皆が「大事にされる(即ち、愛される)」会社になっている。会社というのは、これでいいのじゃあるまいか、生産効率が少々悪くてもーーー。
因みに先のレンタルのミニ社長U君が、売上げの扱い高が増えて超多忙となって困る事態になったら、貴方が全体の経営者ならどうする? 多分貴方はこうするに違いないが、二通りある:
やり方A.
「新人を一人雇い入れて、多忙なU君の手助けをさせる。つまりU君を係長か課長に昇格させ、新人をその下に付けて部下とする。或いは、新人に梱包をやらせ、U君は顧客とのもっと高度な打ち合わせに専念させて、分業させる」
が、私ならこうする:
やり方B.
「日本市場を東西に二分割する。そうした上で東日本全体をU君の担当とし従来と同じ仕事を継続させて、同じミニ社長のまま。入社した新人は、西日本全体を統括するミニ社長とし、内容はU君とそっくり同じ仕事。ミニ社長が、東と西で二人になるだけ」
同じ会社を経営するとしても、AとBとの百八十度違った「やり方」のあるのがお分かりいただけたろうか? 大概の会社が前者Aのやり方。私のやり方Bが必ず正解と言うのではないとしても、経営者がどの施策を取る否か、二者択一の場面は多い。
これは簡単な分岐点に過ぎなく見えるが、この選択の累積が会社が三十数年以上続くかどうかになる、と言いたい。考えて選択するなら、会社が続くのは、運という偶然の結果でないと分かる。個人の人生の成功・失敗についても似た事が言える。
会社の経営というと、無味乾燥で機械のような合理主義・コスト低減ばかりを考えているように見えるかも知れない。が、経営の本質を突き詰めて行くと、そこで働く社員達の「人の本性とは何か・愛とは何か」に行き着く思いがする。
完
比呂よし
2017.2.11




