表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/1692

突然涙ぐむ

4.突然涙ぐむ


 崖から突き落とされて、谷底から這い上がって来た者だけが育つ結果になった。「ライオンの子育て」と言うようだが、這い登って生き残った何人かは、外に行くあてが無かったらしい。泥棒市場の中に留まって自活の道を探り、やがて独りで何でも出来るようになった。


 「元トラック運転手」だった新人の一人は、教えられもしないのに見よう見真似で勝手に設計方法をマスターして図面を描くようになったし、女事務員は客に対して 「オスネジをピンと立ててからメスネジに挿入せよ!」と喚くようになった。教えて呉れる先輩が居らず、当初は孤立無援で本人達は半分破れかぶれだったらしい。こうして「末恐ろしい」連中が出来上がり、ふてぶてしく成長して、めいめいが「ミニ社長」へと出世してしまったのである。


 社員の中には、ふてぶてしくないのも混じって居た。それでも差別無くほったらかされたが、周りからダメ女と見られていた。彼女はある時、難しい客に捕まって、クレーム処理でネチネチと絡まれて厄介な問題になった。カッと切れもせず辛抱強く難しいやり取りを続け、背伸びをしてアップアップしながら対応に当たった。調べ物をしたり走り回って聞き合わせ、やっとこさ何日間掛かりで問題を解決し、収めた。案外な出来栄えに感心し、私は女を見直した。


 程なくして女が他の用事で私の机の所へ来たついでに、声を掛けてねぎらった:

「君はよくやっている。頑張ったねーーー」

 彼女は能面のように表情を動かさず、私の顔を暫くじっと見詰めた。それから突然涙ぐんだが、慌てて直ぐに涙を隠した。流石にこの時はライオンのスパルタ教育も少々行過ぎたかなと、私は反省した。女だからこそ、抱きしめてやる訳には行かない。配偶者の目がある。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ